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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

マーケティング講座 教授 正司健一

 

近年、都市と交通の関係に言及した書籍が数多く発刊されている。国民の多数が生活し、おそらく今後さらにその比率が高まると想定される都市圏の現状が必ずしも満足できる水準にないこと、交通政策がこの問題解決への一つの大きな鍵を握ると考えられていることがこの背景にあると考えてよいだろう。今回は、このわれわれにとって身近で重要なテーマである都市と交通を論じた図書を何冊か紹介する。

ところでこのような問題意識は、わが国のみならず先進国でも一般的なもので、実際、都市交通政策について大きなパラダイム転換を行った国・都市も少なくない。そしてそこで共通する、都市、なかでも多くの人々がもっとも魅力を感じ、またそこに滞在する必要性をもつエリアである都心部、ならびに郊外部からこの都心部へ向かう放射状の交通回廊では、自動車(とくに自家用乗用車)のためにこれ以上空間をさくことは現実的な対策ではありえないという認識である。

市川嘉一著『交通まちづくりの時代:魅力的な公共交通創造と都市再生戦略』
ぎょうせい、2002年。

このような欧米諸都市の先進的な取り組みを、著者自らが積み重ねた現地取材をベースに紹介した図書として、市川嘉一著( 2002)『交通まちづくりの時代:魅力的な公共交通創造と都市再生戦略』ぎょうせいがある。なお、同書を読まれる場合は、ある程度基礎知識のある方は1章の「まちづくりとしての交通」から、関心はあるけれどこの分野のことをはじめてという方は、2章以降の欧米各都市の事例紹介から読み始めることをお奨めしたい。

たとえば6両編成の通勤電車が5分間隔で走行しているとすれば、乗車効率(混雑率) 100%で毎時約1万人、国土交通省がピーク時のサービス目標として設定している乗車効率(東京圏は暫定的に180%でよいとされているが)150%では毎時1.5万人の乗客を1方向に運ぶことができる。これに対して高規格の道路でも、その交通容量は1時間1方向1車線当たり最大で乗用車換算約2200台だから、通勤トリップでの平均乗車人員を1.1人/台を考え合わせると、1.5万人を運ぶには、片方向6車線という、あの米国でさえなかなかお目にかかることのできない広大な道路が必要な計算となる。それも、 交差点(信号)が存在しない道路構造での話である。そのうえ、自家用車にはそれだけの駐車場をどこに確保するのかというさらに難しい問題がある。

自動車交通の持つ限界については、環境面、安全面、エネルギー消費面からも厳しい指摘がされている。ただ幸いにして、 今後の技術進展によって自動車単体が発生する社会的費用はある程度削減できるとされている。しかし、空間非効率性は技術進歩が解決できる性格の問題ものでは残念ながらなさそうである。したがって、 自動車への依存度を高めることと、賑わいのある快適な都市生活とは両立せず、都市の活力の源泉である中心部での高密な活動は、鉄道を中心としたしっかりとした公共共通システムによってのみ維持され続ける。

欧米各国で、近代型路面電車システムである LRT(Light Rail Transit)ないし従来からの路面電車をはじめとした鉄軌道システムを柱とした都市交通システム構築の動きが一般化しているのも、都心部で業務をはじめとした多様な諸活動を日々行っている膨大な数の人々の流出入及び都心部内でのスムーズな移動を確保する重要性を意識しているからといえるだろう。実際、LRTの整備、さらにこれとリンクするかたちで、都心部の道路空間(交通空間と表現した方がよいかもしれない)を歩行者と自転車、そして路面電車(ないしLRT)に開放し、自動車(自家用車のみならず、タクシー、都市によってはバスも含めて)はその周辺部を迂回させるといった施策が、欧米各国で導入されている。
 

望月真一著「路面電車が街をつくる:21世紀フランスの都市づくり」
鹿島出版会、2001年。

なかでもフランスは、わが国や英国同様いったん路面電車を廃止し、都市の道路空間を自動車用にした国でありながら、近年各都市でその施策を転換し、路面公共交通なかでもLRTを新たに整備し、そしてこの交通システムを基軸にして都市の復権をめざしている点で有名である。望月真一著( 2001年)「路面電車が街をつくる 21世紀フランスの都市づくり」 鹿島出版会は、まさにこのフランス各地での試みについて、都市整備政策の背景、制度、異なる意見評価なども含めて理解できるよう紹介した本である。著者は都市計画のプランナーであるので、評者とは視点が違うものの、フランスの街(成功例が中心)が路面電車(トラム)で活性化した様子が知り得る同著は貴重である。

米国発の概念として、本分野のキーワードの一つとしての地位を得るに至ったものに TOD(Transit Oriented Development:公共交通指向型地域開発)がある。いうまでもなく、自動車が人々の移動にとってのマジョリティを占める以前、地域(都市)開発は transit(大量輸送機関・公共交通機関)とともにあった。米国でも19世紀の都市計画は徒歩と鉄道を意識したものであったが、それがモータリゼーションの進展(オートモビリティといった用語も使われる)とともに、ほぼ完全に自動車指向のものとなっていた。しかし自動車の世紀といわれる20世紀も末になり、その問題点が大きく取りざたされる中、米国でも一部の都市で方向転換がはじまったのである。もっともその実態は、公共交通機関とくに鉄道が主要な移動の手段で有り続けている国に住んでいる者からみれば、そんなに大げさに言えるものなのか、これでTODに本当になるのか理解に苦しむものも含まれており、あのアメリカでさえ転換を模索しているといった視座から情報を読む必要がある(その点を知ってか知らずか、直輸入して紹介する論者もいるので注意されたい)。
 

家田仁・岡並木編著、国際交通安全学会・都市と交通研究グループ著『都市再生:交通学からの解答』
学芸出版社、2002年。

家田仁・岡並木編著、国際交通安全学会・都市と交通研究グループ著( 2002)『都市再生:交通学からの解答』学芸出版社は、都市と交通の再生に向けて、両者の関係のダイナミズムに留意しながら、欧米において中心的戦略となっているこのTOD 、さらにTIA(Traffic Impact Assessment:交通影響評価)、TDM(Transportation Demand Management:交通需要管理)、交通静穏化等の具体的施策を、内外事例を比較しながら詳説し、整合性のある施策確立への提言を試みた書であり、本分野について関心を寄せる読者にお勧めしたい。

わが国の場合、とくに私鉄という地域に根ざさざるをえない企業が、市民の交通を中心とした多様なニーズに市場原理にもとづいて対応し続けてきたおかげで、税金(補助金)に大きく頼ることなく、公共交通システムが維持されてきている。それだけに鉄道とまちの関係を考える上で欧米にない貴重な情報を数多く持っている。その一方で、駅前商店街のシャッター通り化や私鉄の経営環境の悪化という各種の問題を抱えている。
 

北村隆一編著「鉄道でまちづくり:豊かな公共領域がつくる賑わい」
学芸出版社、2004年。

北村隆一編著( 2001)「ポストモータリゼーション:21世紀の都市と交通戦略」学芸出版社。

北村隆一編著(2004)「鉄道でまちづくり:豊かな公共領域がつくる賑わい」学芸出版社は、都市の魅力に焦点をあてつつ、鉄道と都市との関係を考えた本である。同著では、都市の魅力はそれが提供する豊かな公共領域にあるという視座から、都市、とくに鉄道駅を核とした繁華街の魅力の検討も行われている。なお同じく北村氏は都市と自動車の関係について広範な視点から論じた、北村隆一編著(2001)「ポストモータリゼーション:21世紀の都市と交通戦略」学芸出版社も出版しており、同分野に関心のある読者はあわせて読まれることをお勧めする。

 

青木仁著『なぜ日本の街はちぐはぐなのか:都市生活者のための都市再生論』
日本経済新聞社、2002年。

最後に、交通問題はどうも話が大きくなりすぎて身近な問題として捉えにくいとお考えの読者は、青木仁著(2002)『なぜ日本の街はちぐはぐなのか:都市生活者のための都市再生論』日本経済新聞社をお奨めしたい。同著は、国や他社が動くのを待っていたずらに時を費やすのではなく、自分自身ができることは何かを考えることが、都市の再生、そして私たちの生活の再生にもっとも重要であるとの考えからより良い街づくりのためにいまわれわれがなすべきことを論じた本である。

( Copyright © , 2005, 正司健一)