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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

神戸大学におけるMBA教育の体現

島田智明

神戸大学におけるMBA教育は、Research-based Educationと表現され、修士論文が必修となっている。欧米の標準化されたMBA教育にはない独特のやり方であるが、欧米に比べ、MBA履修生の平均年齢が10歳程度高いことを考えると理にかなっている。社会人を10年以上経験すると、当然のことながらいろいろな問題意識が芽生えてくる。そして、MBAに興味をもつような知識人は、その問題意識を深く掘り下げてみたいという知的好奇心に駆られるはずである。それを修士論文という形で体現させるのが神戸大学のMBAプログラムの醍醐味である。

ただ、修士論文では時間が限られているので、満足いくまで研究することは難しいかもしれない。そこで、是非、皆様の問題意識を博士論文という形で実現して頂きたいという思いの下、神戸大学大学院で経営学修士(専門職)を取得された後、同大学院で博士号を取得された方々の本をご紹介する。

ここでは、三冊だけご推薦するが、三冊とも研究内容だけでなく、研究調査の手法として参照できる良書である。どのような理論に基づいて、どのようなデータを収集し、どのように分析し、そして、どのように結果を解釈するか、とても参考になる三冊である。とくに、社会人で博士論文を書きたいと思っている人には、手元に置いておく必須の「参考書」と断言してもよい。

まずは、大手小売業で人事教育部長、戦略室次長等を経て、現在、本研究科にご在籍の平野光俊教授の著書をご紹介する。博士論文を基に執筆された著書はすでに絶版ということなので、その延長線上で執筆された以下の本をご紹介させて頂く。

平野光俊『日本型人事管理: 進化型の発生プロセスと機能性』中央経済社、2006年

内容に関して、本より抜粋させて頂く。「人事は流行に従う」。企業の人事スタッフは、流行の人事制度を模倣して、自社に取り入れようとする傾向が強い。その結果、どこもかしこも似たような人事管理の仕方に収斂していくのである。業績好調な他社(とりわけアメリカ企業)でうまくいった事例が、自社でも有効に機能する保証はない。アメリカにおける人事管理の仕方を表層的になぞるのではなく、パフォーマンスに良好に作動する集中的人事管理と分権的情報システムの補完性、つまり日本型組織モードの制度的叡智を理解することが重要なのである。本書は、「人事は流行に従う」を追究しようとする人事スタッフに、日本型人事管理の進化型の具体像とその機能性の説明原理を提示している。

次に、工学部を卒業後、20年以上大手電機メーカーでお勤めになり、現在、神戸大学経済経営研究所にご所属の伊藤宗彦教授の著書をご紹介する。ご専門はイノベーション・マネジメントである。

伊藤宗彦『製品戦略マネジメントの構築: デジタル機器企業の競争戦略』有斐閣、2005年

内容に関して、本より抜粋させて頂く。「デジタル時代の戦略立案力を問う」。日本企業が得意としてきたすり合わせ型の製品開発の競争力を検証するとともに、モジュール化・水平分業化・標準化が進む産業における製品戦略を明らかにする。具体的な内容は以下の通りである。(1) デジタル機器産業の競争戦略: 概論(デジタル機器産業の競争戦略; ソフトウエアとハードウエアの統合; 企業の製品開発活動)、(2) 製品戦略: 価値創造に向けて(製品戦略と組織構造; 技術のブラックボックス化; モジュール化と標準化)、(3) 製品戦略: 価値獲得に向けて(産業の水平分業化; 水平分業構造下での価値獲得)、(4) 製品戦略マネジメント(製品戦略マネジメントに向けて; 産業構造と競争戦略)。

最後に、外資系製薬企業で20年以上ご活躍された後、現在、京都大学薬学研究科で研究員をされている瓜生原葉子氏の著書をご紹介する。2011年に完成した博士論文を基に執筆された本で、2012年の最初に出版されたところである。

瓜生原葉子『医療の組織イノベーション: プロフェッショナリズムが移植医療を動かす』中央経済社、2012年

内容に関して、著者ご自身から頂いた要旨を掲載させて頂く。「経営学で命を救う!!」。臓器提供不足は、年間2000人以上の移植待機中の死亡を引き起こしており、経済的、法律的、国際的な諸問題を包括する日本の深刻な社会問題となっている。筆者は、20年もの間、移植医療に関わる多くの人が、臓器提供の増加と質の向上へ多大な努力を払っているのを見続けてきた。何とかその一助になりたいという熱い思いが、筆者を研究者の道へと駆り立て、本書の執筆につながった。経営学のアプローチで医療社会問題の解決に挑んだ実証研究である。

本書においては、プロフェッショナリズムを介した医療専門職の高業績人材育成により、日本が直面する深刻な臓器提供不足問題の解決を図ることを提案している。臓器提供に影響する因子に関して、122報の先行研究を多方面から体系的に分析し、16カ国の取組み事例の分析も加えた上で、93カ国6482名を対象にアンケート調査を実施した。そして、世界中から収集されたデータを基に、共分散構造分析を用い、臓器提供に関する様々な因果関係を定量的に分析した。その結果、病院、地域社会、政府が組織イノベーションを起こし、医療専門職が「成果に資するプロフェッショナリズム」を発揮できる環境を構築することが、臓器提供の増加と質の向上につながることを明らかにした。

本書を、移植医療関係者だけでなく、様々な分野の医療専門職に就いている方、経営学に興味をもっている方、そして、社会問題に取り組んでいる方々に読んで頂き、移植医療の理解を深めて頂くことで、移植を必要とする人の希望の灯につながることを願っている。

以上、三冊をご推薦させて頂いた。たとえ、内容が皆様自身の興味と異なっていても、学術研究自体に興味を抱いている人、とくに、経営学の分野で学術論文を書いてみたい人には、どれも模範例として参照できる必読の書である。

Copyright © 2013, 島田智明