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会計がもたらす景気変動増幅効果

桜井久勝

企業が財務報告を行うための会計基準の形成において、古来より議論の対象を変えつつ、何度も繰り返して問い直されてきた重要な論点の1つとして、「企業が貸借対照表に掲載する資産や負債は、決算日ごとの時価で評価されるべきか、それとも過去の取得時や発生時の原価で評価されるべきか」という問題があります。

この議論に対する現在の通説的な見解は、「金融資産は時価ないし公正価値で評価し、事業資産は原価で評価し必要に応じて評価減を行う」という枠組みです。しかし過去数年間に世界経済が経験した金融危機は、この大原則の正当性や実践適用に対して、大きな疑問を投げかけるに十分でした。

財務会計における金融資産の公正価値測定は、今回の金融危機に対して、どのような影響を及ぼしたのでしょうか。またこの経験から私たちが学ぶべきことは何でしょうか。次の書籍には、この興味深い問題に関する多様な見解が展開されています。

  大日方隆(編著)『金融危機と会計規制』中央経済社、2012年3月。

2007年夏にサブプライム住宅ローン問題が表面化して金融市場全体が混乱し、2008年9月のリーマン・ブラザースの破綻が契機となって金融危機が勃発してから、早くも数年が経過しました。この間に再発防止を企図して危機の原因分析が進められる過程で、金融商品の公正価値会計は、景気変動増幅効果をもたらしたという理由で批判の標的にされることもありました。

市場価格が下落する不況期の時価評価に起因して評価損が自己資本を減少させ、銀行が自己資本比率の維持や回復のために資産を売却すると市場価格が一段と下がって評価損が拡大され、景気の悪化を増幅したとして、金融資産の公正価値会計が批判されるのです。

しかし公正価値会計が金融危機の原因ないし拡大要因か否かについては、諸説が存在していて意見の一致を見ておらず、論ずべき課題も多岐にわたっています。このような状況のもと、本書は9名が分担執筆した論文を収録して編集され、主として次の3つの論点に取り組んでいます。

第1の問題は、公正価値による測定と評価は会計理論においてどのように正当化され、それが適合する領域と適合しない領域の境界線がどこにあるのかを問うことです。第2に、会計規制のあり方や会計基準の内容が、金融危機の発生とどのような関連性をもっているかが考察されています。第3の論点は、金融危機の経験は会計規制や金融商品会計基準のどこにどのような課題があると教えてくれているのかという点です。

世界金融危機の勃発から数年を経た今、その再発防止と会計規制の役割をめぐって有意義な考察を行うために、多彩な論点と豊富な素材を提供してくれる本書を、多くの読者に推薦します。

Copyright © 2013, 桜井久勝