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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書
財務会計講座 教授 桜井久勝
 

いま、国を挙げて知財立国という目標が掲げられています。その知財立国の目的は、研究活動や創造活動の成果を知的財産として戦略的に保護・活用することにより、経済の活性化と国際競争力の強化を図ることにあります。
このような政策展開の影響もあって、いま書店の店頭には特許権やブランドなど、知的財産を取り扱った書物が激増しています。あまりにも多すぎて、どれを読んだらよいのか迷うほどです。そのうち最近に私が興味深く読んだ本を何冊か、以下で紹介しましょう。

知的財産戦略をバックアップする日本政府の政策推進の現状は、首相官邸のホームページに設けられた「知的財産戦略本部」に関する部分(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/index.html)から知ることができます。2002年3月に小泉首相がスタートさせた知的財産戦略会議の成果が同年12月に知的財産基本法として結実し、2003年3月から施行されているのです。

その知的財産基本法によれば、知的財産権とは、特許権、著作権、商標権その他の知的財産に関して、法令により定められた権利または法律上保護される利益に係る権利として定義されています。個別の法律をもって保護されているそれらの権利は一般に工業所有権と呼ばれており、特許権、実用新案権、商標権、意匠権がその代表です。これに著作権を加えたものが、知的財産権の中心部分を構成します。

これらの権利は、大きく2つのグループに分けることができるでしょう。1つは、生産活動に関連する特許権や実用新案権であり、特にB to Bの企業にとって重要です。いま1つは販売活動に関連するもので、商標権と意匠権が中心となってブランドを構成します。この知的財産は、特にB to Cの企業にとって、経営の成否を左右するほどの影響を持っています。

以下で紹介する図書は、いずれもこのような知的財産権を、企業経営ないし経済の側面から論じたものです。知的財産研究の焦点の当て方という点では、この他に、法律の観点から議論した書物もあれば、理系の技術的な側面に特化した文献など、アプローチは多彩です。寸評者は、企業の決算報告を取り扱う財務会計および財務諸表分析による企業評価を専攻分野としています。したがって書物の選択には、そのような寸評者の研究上の興味に起因して、バイアスがかかっていることを承知のうえで読んでいただければ幸いです。

 

渡辺俊輔(編著)『知的財産:戦略・評価・会計』東洋経済新報社、2002年6月。

 
(寸評) 知的財産に関連する企業経営上の幅広い論点を、次のように3つに区分して取り扱っています。知的財産の構築と活用を論じた第1部の戦略編、知的財産の評価とその価値を利用した資金調達に焦点を当てた第2部のツール編、そして財務報告の諸問題を考察した第3部の会計編がそれです。議論のスタイルには、過度に学術的・専門的にならないようにとの配慮が感じられます。
 
論述されているトピックスには、たとえば日亜化学の青色LEDをめぐる同社の特許戦略の評価や職務発明報酬の問題、インタープランド社のブランド価値評価モデル、オプション評価理論を援用したpl-x社の特許価値評価モデルなど、実に興味深いものが多数含まれています。机に向かって身構えながら読むのではなく、通勤電車の中でも気楽に開いて、知的財産に関連する経営学の諸問題を概観するのに適した文献です。
 

鮫島正洋(編著)『特許戦略ハンドブック』中央経済社、2003年4月。

 
(寸評) 編著者の鮫島氏は、工学部出身のエンジニアであり、弁理士と弁護士というダブル資格の保有者です。そのような編著者をはじめとして、ジャーナリストやコンサルタントをも含め、特許に関連する各種のエキスパートが、知的財産の創造からそれを利用した収益の増進と企業価値の最大化に関連する経営問題に焦点を当てて論述しています。
 
特許権を取り扱った本といえば、従来は特許法という法律条文の解説や特許申請の手順を紹介したものが圧倒的に多かったように思います。これに対して本書は、特許の出願や取得だけに限定することなく、むしろ経営戦略や企業管理に関連する論点を中心に取り上げているのが特徴です。たとえば企業経営における特許の位置づけ、特許ポートフォリオを形成するための留意点、特許の価値評価をはじめとする知的財産管理の方法、ライセンシングによる収益化などのトピックスが議論されています。
 

知的財産総合研究所(編)『ブランドの考え方』中央経済社、2003年3月。

 
(寸評) 販売関連の知的財産の核は、商品の名前を中心とした商標権と、デザインを対象とした意匠権であり、これに商号すなわち会社の名前そのものを加えて、コーポレート・ブランドが構成されます。モノが売れにくい時代を反映してか、ビジネス界では企業のブランド価値の増進に注目が集まっています。経済産業省もそれに呼応して、ブランド価値評価研究会を設置し、報告書をとりまとめました。
 
本書は、同研究会のメンバーが中心となって、ブランド価値評価研究会の報告書の主要な論点を解説したものです。その中心は、研究会が構築したブランド価値評価モデルの説明ですが、あわせてブランドを利用しつつその価値を高揚させるための経営管理のあり方や、ブランド使用料の授受をめぐる商法や税法などの法律問題も取り扱われています。いわゆる経済産業省モデルの特徴を理解するのに最適な書物です。
 

バルーク・レブ(著)、広瀬義州(監訳)『ブランドの経営と会計−−インタンジブルズ』東洋経済新報社、2002年7月。

 
(寸評) 日本政府が知財立国を政策に掲げたのは最近ですが、アメリカは1980年代の前半から、知的財産重視を国家戦略にしてきました。ブルッキングス研究所はそのブレーンの1つです。本書は、そのブルッキングス研究所が、ニューヨーク大学のレブ教授に委託して行われた研究成果の出版物の邦訳書です。今回ここで紹介している図書の中では、最も学術的な傾向が強い本です。
 
知的財産に代表されるような無形資産は、実物資産や金融資産と比べて、どんなパワーと弱点があるのか。特許やブランドなどの価値に関連するであろう物量的な代理変数は、企業評価額や株式時価総額に対して、いかなる実証的な関連性を示しているのか。知的財産に関連するディスクロージャーがもたらすであろう経済的な効用は何か。これらの問題が、経済理論や実証データを援用しつつ、説得力をもって議論されています。少し骨のある書物にチャレンジしたいという人にお薦めします。
 
 

寸評者の著書一覧
(寸評者の執筆論文一覧は、ホームページをご覧下さい)

 
・『財務会計講義(第5版)』中央経済社、2003年。
・『財務諸表分析(第2版)』中央経済社、2003年。
・『財務会計・入門(第3版)』有斐閣、2003年(須田一幸氏との共著)。
・『会計学入門(新版)』日経文庫、2002年。
・『テキスト国際会計基準』白桃書房、2001年(編著)。
・『株式会社会計』税務経理協会、1998年。
・『会計利益情報の有用性』千倉書房、1991年。
(Copyright © , 2003 桜井久勝)