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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書
組織開発講座 坂下昭宣 教授 
 

経営学が戦略を立て、組織を作り、人を動かす方法を研究する学問であるとすれば、組織研究の方法について述べることは意味があるだろう。もとより経営学にしろ、組織論にしろ、広くは社会科学に含まれるのであるから、いわゆる社会科学の方法の域を超えることは出来ない。ここでは社会科学としての組織研究の方法について考え、それに関連した文献を挙げてみたい。最初に断っておくが、ここで取り上げる文献は必ずしも最新の文献ではないし、派手な話題のしかし短命な文献でもない。いわば地味なしかし長命な文献である。また、それらは日本語の文献か、日本語訳のある文献に限定している。

まず組織論は組織を研究しようとする多数の社会科学、たとえば社会学、心理学、文化人類学、政治学、行政学、経営学、経済学などによって学際的にアプローチされる。その中でもとくに中心的な役割を果たすのが社会学と心理学である。社会学系の組織論はマクロ組織論、心理学系の組織論はミクロ組織論とも呼ばれている。したがって、組織を研究しようとする人は社会学か心理学について、その理論や学説、方法論をある程度知っておくほうが望ましい。ここでは社会学を念頭に置いてマクロ組織論について考えていく。

はじめに取り上げるのは、新睦人他著の『社会学のあゆみ』である。この文献は社会学の確立期から始まり、ウェーバーやジンメルやデュルケムを経て、一方ではシカゴ学派が成立し他方ではマートンやパーソンズの機能主義が全盛期を迎えるまでを、理論や方法論の点からわかりやすくまとめている。一般に日本の社会学者の著作は難解な文章が多いのだが、本書は実に平易な文章で書かれていて、門外漢にも最適の入門書である。

新睦人・大村英昭・宝月 誠・中野正大・中野秀一郎『社会学のあゆみ』
有斐閣新書、1979年。

(寸評)ウェーバーとデュルケムの対照的な思想、全米初の社会学部として誕生したシカゴ学派の思想、遠くはデュルケムの実証主義の流れを汲む機能主義の思想が手に取るようにわかる。読者をたちまち社会学の虜にしてしまう名著である。

 

次に取り上げるのは、新睦人・中野秀一郎編の『社会学のあゆみ パートU』である。本書はいわずと知れた前著、『社会学のあゆみ』の続編であり、前著以降の社会学の新たな流れを概観している。その編集コンセプトは前著とまったく変わらない。入門書とはいえ、前著とともに座右の書としたい名著である。

新睦人・中野秀一郎編『社会学のあゆみ パートU』有斐閣新書、1984年。

(寸評)機能主義の新展開としての社会システム論、アンチ機能主義としてのネオ・シカゴ学派シンボリック相互作用論と現象学的社会学が中心に解説されている。その構図は新機能主義(社会システム論)対アンチ機能主義とでもいうべきもので、組織研究者にとっても必須の論点が目を引く。前著に比べるとやや難解との印象も受けるが、それはむしろ取り上げた社会学説自体の難解さのゆえだろう。
 

次に、バーレル&モーガンの『社会学パラダイムと組織分析』(邦訳名は『組織理論のパラダイム』)を挙げたい。本書は社会学パラダイムならびに社会学的組織論を、4類型(解釈主義、機能主義、ラディカル人間主義、ラディカル構造主義)に整理している。この整理もむろん重要だが、むしろ組織研究の方法という点からは主観主義社会学(その典型は解釈主義)と客観主義社会学(その典型は機能主義)を区分する4つの識別次元(存在論、認識論、人間論、方法論)がもっと重要である。この4つの次元の分析哲学的意味が理解できない人は、おそらく正しい組織研究が出来ないだろう。

G.バーレル&G.モーガン『社会学パラダイムと組織分析』(鎌田伸一・金井一頼・野中郁次郎訳『組織理論のパラダイム』千倉書房、1986年)

(寸評)機能主義及び解釈主義という社会学の2大パラダイムの基本仮定を存在論、認識論、人間論、方法論という分析哲学上の4次元に沿って比較論的に理解するには最適の文献である。たとえば、定性的方法や定量的方法といった組織研究上なじみの深い用語が単にデータ収集方法の違いをいうのではなく、背後にあるもっと深い分析哲学上の基本仮定に必然的に規定される方法論の違いをいうのだということが、本書の前半を読むだけで理解できるだろう。
 

これまでは、組織研究の前提として必要な社会学の文献を挙げてきた。以下では、組織研究の方法として典型的な2つの立場を代表する文献を挙げよう。第1はヘイグの『理論構築の方法』である。本書は、客観主義社会学の立場に立った組織研究の方法について書かれた文献である。現象を記述する理論概念、理論概念の操作化の方法、命題や仮説といった理論言明について述べられており、極めて有用である。

J .ヘイグ(小松陽一・野中郁次郎訳)『理論構築の方法』白桃書房、 1978 年。

(寸評)社会現象や組織現象が理論概念によって記述され説明されるということ、しかもそうした理論概念は研究者本人が独自に開発できるということ、さらにはそれらが操作化という方法を通じて測定できる、ということに本書を読んだ人は驚くだろう。これは「実証主義」という認識論に裏打ちされた客観主義社会学の方法である。本書を読んだ人は「科学する」とはこういうことなのか、と感動するだろう。

 

第 2 の文献は吉見俊哉の『カルチュラル・スタディーズ』である。本書はいわゆる「エスノグラフィー」について書かれた文献であり、主観主義社会学の立場に立った組織研究の方法についても多くの示唆に富んでいる。「反実証主義」の認識論や、定性的データを扱う「個性記述主義」の方法論を知る上でも参考になる。

吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』岩波書店、2000年。

(寸評)社会現象や組織現象については、「科学する」ということが、実はそれほど簡単ではないことが本書を読めばわかるだろう。なぜなら、社会現象や組織現象は社会成員や組織成員といった当事者の意識作用の産物であるので、自然現象とまったく同じ意味での実証主義的認識は原理上不可能だからである。ここに、客観主義社会学に対峙する主観主義社会学の存立理由がある。そのことを理解するのに本書は最適である。

組織を研究しようとする人は、少なくとも以上に挙げた文献を、できればこの順序で読んで社会現象や組織現象を「科学する」とはどういうことなのか、まず考えて欲しい。その上で、自分がどんな立場でどこにいるのか、そしてこれからどこへ行こうとしているのか、しっかりと自覚して研究して欲しい。

寸評者の著書一覧
(寸評者の執筆論文一覧は、ホームページをご覧下さい)

  • 『組織シンボリズム論』白桃書房、2002年。
  • 『経営学への招待(改訂版)』白桃書房、2000年。
  • 『経営学大辞典(第2版)』中央経済社、1999年(共同編集代表)。
  • 『日本的経営の本流』PHP研究所、1997年(編著)。
  • 『人を動かす』PHP研究所、1995年。
  • 『組織行動研究』白桃書房、1985年。
  • 『ヴルーム・仕事とモティベーション』千倉書房、1982年(共訳)。
  • 『組織現象の理論と測定』千倉書房、1978年(共著)。
  • 『経営管理入門』有斐閣、1978年(共著)。
  • 『近代組織論(U)』白桃書房、1975年(共著)
( Copyright © , 2004 坂下昭宣)