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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書
ビジネス・モデル革新講座 助教授 村上英樹
 

10月初旬、経営学部平成15年度後期開講のトップマネジメント講座の1つとして、全日本空輸株式会社大橋洋治社長に講義をしていただいた。その中でもあったように、航空需要は戦争あるいはSARSなどの疫病の影響を強く受ける。

航空需要は、他の交通手段の需要と同様、いわゆる派生需要である。つまり航空需要は、一般的には自己価格、代替財・補完財の価格、所得、ならびに市場規模といったようなファクターにより決定される(1)。航空需要はさらに本源的需要、たとえば旅客であれば旅先の目的地の諸観光施設の価格、貨物であれば仕向け地での製品の価格の影響を受ける(仕向け地での取引量の影響を受けると仮定する需要関数を条件つき需要関数と呼ぶ)。さらに先ほど述べた戦争や疫病などの外的ショックが決定因として加わる。

また供給側の特性として、大橋社長もご指摘のとおり、ホテル業や生鮮食品と同様、「在庫不可能性」という要因が加わる。通常航空会社は座席利用率75-80%超ぐらいでいったん満席宣言をし、割引運賃利用客の数を制限するとともに、フライトの直前に突発的に飛び込み、正規運賃を支払ってくれるビジネス客をできるだけ数多く確保して利潤を極大化しようとする。しかし、思うようにビジネス客の数が伸びない場合は再度割引運賃を発行し、「空気を輸送するよりはマシ」ということで、フライトの直前に激安の割引運賃を流すこともある。

このような需要・供給両方の要因により、自由競争の下では航空運賃はどうしても乱高下とはいわないまでも変動しやすい。そうなると、どうしても運賃の安定化を政策側に求める声は大きくなる。

さらに航空産業の特性として、サービスの差別化が極めてはかりづらいことが、業界人・研究者の双方から指摘されている。それもそのはずで、乗客100人超の中型・大型ジェット機の供給元は、世界でボーイングとエアバスの2社、それとロシアのツポレフやイリューシンなど少数で、ロシア製の利用国は旧・現共産主義・社会主義諸国に限定されているといっていい。つまり、旧西側諸国への航空機の供給元は2社しかない。つまり、生産設備は同じなのである。そこで、空港の容量に余裕があり、航空会社が思うように増便できるのであれば、航空会社は旅客の待ち時間を減らし利便性を向上させるため便数競争に打って出る。それが叶わぬ場合には、予約サービス、機内サービス、乗り継ぎサービス、空港へのアクセスサービス向上、果ては日本の某航空会社のポケモン塗装にいたるまで、付加的なサービスの向上を図るが、コスト増の割にはそれらの効果はきわめて小さい。それらの中で、特に乗り継ぎサービスについては、国際航空会社は多くの場合国家間の取り決めにより自由に他国の空を飛ぶことができないため、異なる国の航空会社間でコードシェアなどの戦略的提携を行って(2)、相互の路線網を拡張し、しかもそれがあたかも1つの航空会社のネットワークであるようなシームレスな乗り継ぎサービスを提供しようとする。

以上のような運賃の平準化インセンティブ、サービスの同質性、およびネットワーク拡張インセンティブは、どうしてもカルテル形成による共謀行動を生みやすい。規制下であれば政府へ更なる規制強化を訴え、また自由化されている下では独禁当局の許容範囲内で提携を行うか、あるいは独禁法適用除外を要求するかなどパターンはさまざまである(概して独禁当局の権限の強い米国が絡む場合は運賃・輸送量調整などの大胆な行動は容認されていない)。

一方でカルテルに加わるインセンティブのない航空会社も多数存在する。それらは機材あるいはネットワーク構成をもう一方のグループとまったく異なるものとし、徹底的な低費用化を図っている航空会社である。基本的にはそれらの航空会社はB737やA320などの中型機による近距離多頻度・リニアネットワーク輸送を基本とし、先に述べた「共謀(しやすい)グループ」の遠距離・ハブアンドスポーク輸送というサービスの特徴と明らかに一線を画したサービスの特徴を持っている。世界の航空会社群は、以上のような「共謀(しやすい)グループ」と「低費用グループ」の二極化に向かっているのが現在の状況である。

以下に紹介する2つの書物は、このような二極化構造に向かう業界について、その原因となる制度の分析を行ったうえで、産業の現状と課題について論じたものである。あらかじめ断っておくと、ここでの『オススメ』という言葉は、「まぁ、読んでみていろいろお考えになればどうですか」というサゼスチョンであって、ある種の文学作品のように、評者がその著作に心酔して他人に推薦する、という意図は毛頭ない。

 

R.ドガニス著、塩見英治他訳『21世紀の航空ビジネス』中央経済社、2003年。

 
(寸評)同著によると、ドガニス氏は、ギリシャ・オリンピック航空最高経営責任者および神戸大学大学院経営学研究科が提携している英国のクランフィールド大学の教授の経歴を持つ。概していうと、本書を含めこれまでの著作は、経験を踏まえた制度分析と経営分析を主な内容としている。学部レベルのテキストとしては良くまとまっており有用である。ただ、研究者レベルでいうと、現象の奥底にある要因に関しては分析がなされておらず、また著者の履歴からして無理からぬことではあるけれども、アジア方面の航空産業に関する記述に乏しい点が問題であろう。翻訳文は読みやすく、翻訳に携われた日本の諸先生方のご努力には敬意を表する。
 

吉田茂・高橋望著『新版 国際交通論』世界思想社、2002年。

 
(寸評)吉田・高橋(2002)は、1995年に出版された『国際交通論』に、さらに今日的課題を取り入れ加筆修正したものである。その中で後半部分が航空輸送のパートである。専門書あるいは啓蒙書のいずれに分類されるかという問いに対して強いて答えるとすれば後者に属することになろう。しかしながら、その構成はあくまで正統派の近代経済学あるいは産業組織論の流れに従ったものであり、読み手にも深い専門的知識を要求するものである。したがって、大学の学部あるいは大学院での講義テキストとしてのみならず、研究者が引用するに値する十分な十分高いクオリティを有する書物であり、社会科学の発展に貢献することが期待される好著である。神戸大学では、学部の国際交通とゼミで参考図書として使用している。

最後にもうひとつ、航空産業の二極化と深くかかわる内容を持つ下記の著書を紹介しておく。

 

猪瀬直樹+MM日本国の研究企画チーム『一気にわかる!空港の内幕』PHP、2002年。

 
(寸評)道路関係4公団の民営化推進委員でマスコミでの発言も多い同氏が、ほぼ同じ時期に特殊法人民営化、デフレ危機、および住宅金融公庫廃止に関する4部作?を発表した中の1冊である。契機となったのは、国土交通省案による日本の主要空港の上下分離(上物と滑走路などの下物の経営分離)案と成田・関空・それと中部国際の下物統合案である。著者グループの論点は、基本的には、(1)3つの国際空港の下物を管理する特殊法人が儲かる成田で得た利益を原資とし、赤字たれ流しの関空・中部の建設に補助を行うことについて、(所得分配上)問題があるのではないか、(2)1つの民営化された企業体が各空港を包摂して所有し、かつ上下を同時に管理したほうが、滑走路建設にせよ上物建設にせよコスト・セーブ意識が発生し、過剰投資が防げるのではないか、ということである。
 
そして、過剰投資を引き起こす空港整備特別会計などの構造的な政策的課題、神戸空港を含めた関西圏の3空港の1つの民営組織による運営の提案、あるいは民営化空港の成功事例、日本の空港需要予測の甘さなどにも言及している。 概してそれらは評者がこの10年来主張してきたことと同意見である。ただし民営化への過剰な期待(注:たとえ民営化されても地域独占になってしまえば効率化は期待薄である)とか、自然独占理論あるいは限界費用価格形成による必然的な赤字問題など、伝統的な政府規制容認論を完全無視している点が、いかにもインパクト狙いのマスコミ出身民営化委員らしい。それと、もっとも重要なピットフォールは、空港問題を航空政策と関連付けていない点である。現在北東アジアでは、台湾と韓国が90年代末にすでに米国との間で航空自由化に調印し、さらに韓国にいたっては米国の一部航空会社に対するゲージ権(第7の自由。たとえば米国の航空会社が韓国の空港をハブとし常駐する権利)を認めている。この米国による自由化政策は、米軍が戦争でしばしば見せる敵国/敵陣包囲作戦で、明らか日本を意識的に包囲し、自由化を受諾させるプレッシャーを与える作戦である(もちろん日本を敵視しているわけではないだろうけれども)。今後完全でなくとも日本がある程度自由化に合意すれば、現在の空港需要予測は意味を成さなくなるとともに、関西空港の2本目滑走路や神戸空港など、現在では無駄とされている投資が意味をもつ可能性も出てくる。特に世界航空業界の二極化の中で、神戸空港が米国のセカンダリ空港(低費用航空会社が専用に使用する、市街地に近い空港)に近い役割を担う、あるいは神戸空港にそれを担わせるなどの新案が登場する可能性がある。読者には、このような視点から空港問題と航空自由化問題を考えてもらいたいとともに、今後猪瀬氏らの発言で、何が正論で何が都合よく言及されていないかを探りながら(ツッコミを入れながら)、今後の政策と産業の成り行きを見守ってもらいたい。

なお吉田・高橋(2002)に関しては、『海運経済研究』36巻(2002)所収の書評も参照されたい。

(1) これをマーシャル型需要関数という。さらに所得・市場規模の代わりに「効用」を決定要因として考慮するヒックス型需要関数があり、両者は双対関係(デュアリティ)という関係を通じて相互変換が可能である。

(2) 域内自由化を達成し、その域内を一国とみなすEUにおける航空会社の異国間合併は承認され、このたびKLMとエールフランスが合併を行うが、その他の地域では航空会社の国際合併は認められない。最大50%未満の持ち株が認められているケースが多い。

 
(Copyright © , 2003 村上英樹)