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大局観を鍛える

三品和広

経営戦略は定義的に未来に働きかけるもので、未来に関して何らかの仮定を置くことを強要するものです。ところが、これも定義的と言わざるを得ませんが、未来を確実に読むことなど人間にはできません。だから戦略は難しいのです。巷には戦略の本質を「分析」に求めるハウツー本が出回っており、30代の人々に自己満足感をもたらす程度の役割は果たしていますが、本当に戦略を司る50代や60代の人々がそういう本を手にする姿は見たことがありません。それもそのはず、彼らは不確実極まりない未来に向かって立てる「読み」に戦略の本質があることを知っているからです。

日本のテレビ産業に起きている事象を見てください。シャープが存亡の危機に立たされているのも、パナソニックが巨額赤字決算を迫られたのも、間違った「読み」に基づいて堺や尼崎に大きな投資をしてしまったからです。決断した経営者たちは、1990年代半ばに日立やNECが喫したDRAMの敗戦から、規模で韓国・台湾勢を凌駕することがコスト競争を勝ち抜く鍵と見たのでしょう。規模で負けてはいけない、だから薄型テレビ市場が本格的に立ち上がってくるタイミングを捉えて大型投資に打って出る。半導体の二の舞は踏まない。そう誓ったに違いありません。

この推論には市場拡大のペースに関する「読み」にも、価格下落のペースに関する「読み」にも、韓国・台湾勢の財務体力に関する「読み」にも、穴が空いていたことが今となっては歴然としています。ただし、それ以上に大きいのは韓国・台湾勢の躍進をどう見るのかという争点でした。日本企業側の失敗が躍進の余地を作ったのか、はたまた歴史の必然としての躍進なのか、そこで「読み」を誤ってしまったのです。

こうした「読み」を立てる作業は技のようなもので、うまくなるには時間がかかります。だからこそ、準備は少しでも早く始めなければなりません。流れを「読む」訓練は、実は義務教育でスタートを切ります。なかでも主軸を成すのは、世界史と日本史です。歴史と聞くと固有名詞や年号を暗記した記憶がよみがえり、発疹が出る人もいると思いますが、本来は流れを「読む」ための最高の教材が世界史や日本史なのです。社会に出て勉強しなおすと、その面白さに気づく人が多いことについては、ここで繰り返すまでもないでしょう。

未来の「読み」に長けるべく、過去の「読み」で自己を鍛錬する。それが経営教育の根幹を成すべきだと私は考えており、私が主催する経営塾では歴史教材を多用します。その中心を成すのは社史ですが、30代の人々を対象とするときは、これを教材として採用しています。

『全集 日本の歴史』小学館、全16巻+別巻、2007年−2009年

娯楽を求めるなら司馬遼太郎でもよいのですが、鍛錬を目指すなら、ぜひ読破してみてください。

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