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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

商学分野 教授 松尾睦

 

ラム・チャラン著『CEOを育てる』(石原薫訳、ダイヤモンド社)

私は経験学習を研究しているが、この本からは「経験を通じた人材育成の方法」に関して、多くの示唆を得ることができた。
著者のラム・チャラン(Ram Charan)は、GE(General Electric)のリーダーシップ研究所で30年間講師を務め、米トップ企業の人材育成を指導してきた経歴を持つ。彼の持論は「よいリーダーになるには才能が必要だが、訓練しないと育たない」というもの。本書によれば、CEO(Chief Executive Officer)を育てるポイントは、(1)リーダーの才能を持つ人材を早めに選抜し、(2)企業全体で人材をプールし、(3)ストレッチ課題を与え続けながら、(4)しっかりフィードバックすることだ。以下、これらの点を簡単に紹介しよう。

(1)早めの人材選抜
CEOになるためには「人を見る眼を持っていること」と「儲けのツボがわかるビジネス感覚」という二つの素養が必要になる。つまり、「的確な人選をし、やる気にさせ、うまくまとめて、新たな高みに引き上げる能力」と「そのビジネスでどうやったら儲かるかというツボを押さえ、大局的に物事を理解できる能力」があれば、将来、CEOになる可能性がある。なお、こうした能力は、実務経験が1年以上あれば見極められるという。その意味でも、早めにセンスのある人材を選抜し、人材プールに登録することが大切になる。

(2)人材プール
CEOを育てる上で最も大事だと思われるのが、この「人材プール」の存在である。社員の1〜2割に当たる「ハイ・ポテンシャル人材」を登録しておき、常に質と量、深さと幅をチェックしながら入れ替えていく。そのためにも、全社共通の選抜基準を定め、しっかりとしたレポート制度が必要となる。

(3)ストレッチ課題
有望な人材に対しては、一人ひとりに育成計画を立てなければならない。このとき、時間をかけた段階的育成ではなく、短期間に規模・領域・複雑さを増して、飛躍的な成長が可能な場を与えることが重要である。3〜5年が異動の目安となるが、課題や試練が大きすぎないよう「ギリギリ可能な課題」を与えることや、失敗する自由を残しておくことも忘れてはならない。

(4)フィードバック
上司は最も重要なメンターであり、1ないし2つの課題に絞って意識的練習をさせる役割を担い、メモや手紙を使って具体的かつ簡潔なフィードバックを提供する。上司は業務の2割の時間を育成のために割くべきであるという。ただし、直属の上司は近すぎて見えにくくなっているかもしれないので、4名程度の複数リーダーが対話して、人材の評価を補正することも重要だ。

以上が本書の概略である。この本を読んで強く感じたことは「選抜育成」の重要性である。1〜2割の人材に絞り込んで集中的に「濃い経験」をさせることが有効になる。
しかし、選ばれなかった人のモチベーションはどうするのか。まず、人材プールは固定化せず、随時入れ替えすれば、どんな人でも選ばれる可能性は残されている。また、全組織の2割の人材がしっかりと育っていれば、彼らの部下・後輩もしっかり育つのではないか、と感じた。「CEOを育てる」体制を整えることが、結果的に「組織全体の人材を育てる」ことにつながるといえる。本書の原題「Leaders at All Levels」が示唆するとおりである。

この本で書かれていることを実行する際に直面するであろう最も大きな障害は「現場における有望人材の抱え込み」だ。放っておくと「うちのエースは他の部門にはやらない」「出て行かれると業績が下がるので困る」と文句を言う人が続出することが予想される。
これを防ぐためには、まずトップが「後継者育成プログラム」に関与し、「ハイ・ポテンシャル人材」の異動については本社が決定権を持つというルールを決めた上で、管理職評価における「人材育成」のウエイトを高めなければならない。また、人材を「最重要資産」として捉え、日々の会議の席で、リストに載っている人材の現状について検討する習慣を作ることも大切である。

日本企業にとって、本書に書かれていることをそのまま実施することは難しいであろうが、部分的に活用することは十分可能であるように思える。この本を参考にして、日本独自の、また企業独自のリーダー人材の育成方法を開発してほしい。

(Copyright © , 2011, 松尾睦)