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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

管理会計講座 助教授  松尾貴巳

 

非営利組織におけるマネジメント・コントロールシステムの重要性が高まっています。これは主に、営利企業に適用してきたマネジメント・コントロールシステムを非営利組織にも適用しようとするもので、ABC/ABM(活動基準原価計算 / 管理)などのコスト・マネジメントシステムや、 BSC (バランスト・スコアカード)などの業績管理、戦略マネジメントシステム の非営利組織への導入をあげることができます。

このような取り組みは、とくに組織を取り巻く環境変化の大きい行政組織や医療組織にとって重要となってきています。行政組織においては、中央政府、地方自治体共に財政悪化に苦しんでおり、事業の優先順位付けや、予算の効率的、効果的運用が求められています。また、指定管理者制度や市場化テストの導入によって、従来「官」が手がけていた事業が民間に開放される部分が出始めており、行政組織やその外郭団体は民間事業者とコスト、サービスの両面で競争が求められる可能性が高まっています。他方、医療組織においても、医療保険財政の悪化に伴う医療費抑制策に対して、コスト・マネジメントシステムの重要性は高まっており、また、医療機関の機能分化と共に、マーケティングやサービス・技術の特徴の明確化が求められているという点で戦略マネジメントシステムの構築が必要になってきています。さらに、非営利組織共通の課題としてアカウンタビリティ・情報公開に対する社会的ニーズが高まっており、質的要素を含むパフォーマンスの評価が重要となってきています。

今回のオススメ図書の紹介では、非営利組織のマネジメント・コントロールシステムを考察するにあたってオススメしたい本を取り上げました。図書の選択に当り 2 つのポイントに留意しています。一つは、 ABC/ABM や BSC などのマネジメント・コントロールシステムの非営利組織への適用を考えるに際して、そもそも非営利組織におけるマネジメントの意義は何か、また、行政や医療組織の考慮すべき制度面などの特徴は何かを考える上で参考になる本です。そして、 二つは、行政、医療組織などの非営利組織に従事、関心のある方だけでなく、マネジメント・コントロールシステムに関心のある方にとって広く重要な示唆を得られるような本です。

なお、以下のオススメ図書は、 1 冊目から順番に読み進んで戴くのがオススメです。

P. F. ドラッカー著(上田惇生、田代正美翻訳)『非営利組織の経営』
ダイヤモンド社、1991年.

(寸評)1冊目は、 P. F. ドラッカーの『非営利組織の経営』です。原書が出版されたのが 1990 年で、 10 年以上が経過していますが取り上げました。後で紹介する、 R. S. キャプランの本で紹介されている行政組織や医療組織における BSC の適用事例において、そもそもなぜ非営利組織において、戦略計画を立てること、顧客の視点で考えること、成果を測定することなどが重要なのか、を考える上で重要な一冊といえます。

P. F. ドラッカーは、非営利組織においても組織としての使命を明確にし、成果の出るマネジメントを行なわなければならないという問題意識に基づき、それまでビジネスにのみ関連付けられる傾向が強かった「戦略」という概念を「組織の使命と目的を行動に転化させるもの」と定義しています。「顧客にとって価値のあるものは何か、どうやったら自分はその価値に迫ることができるか」を考えることや、経営資源との関係において「非営利組織においても、自分たちがとくに優れた能力を有する部分だけに集中すべき」などの戦略的思考が重要であると述べています。さらに、 BSC との関係で興味深いのは、次のようないくつかの指摘です。すなわち、

  • 非営利組織においてはさまざまな利害関係者との関わりが生じるが、多様な利害関係者の中で長期的目標を明確にし、組織がそれを共有化することが必要であること、
  • 目標を達成するためには成果の測定が重要となるが、非営利組織においては財務的成果を測定することが難しいが故に、成果測定が重要な経営課題となること、
  • 成果を測定する上では、非財務的な成果を計量化し、質的な評価が重要であること、また、質の伴わない量的拡大は失敗であること、
  • 質的目標の設定と実行は、仮説構築、検証のプロセスであること、
などです。紙幅の都合上これくらいにしておきますが、本書は2冊目以降の本を読んだ後にもう一度読めばより深い示唆が得られると思います。
 

R. S. キャプラン、D. P. ノートン著(櫻井通晴監訳)
『キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』
東洋経済新報社、2001年.

(寸評)2冊目は、 R. S. キャプラン、 D. P. ノートンの『キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード』です。彼らが BSC を提唱し始めた 1990 年代初頭においては、 BSC は、企業における業績測定において、短期業績に偏重しないよう財務業績尺度を補足するツールとして位置づけられていましたが、財務指標に先行した指標で業績測定することが組織全体のビジョンと戦略をマネジメントすることと重なることから、 BSC は戦略を実行に落とし込むためのマネジメント・ツールとして位置づけられるようになっています。 

本書によれば、行政組織を含む非営利組織への BSC の適用は、 1990 年代半ばまでは初期段階にあったが、その後 2000 年に至るまでの間に、世界中の非営利組織にその概念が受け入れられ、採用されるようになったと述べられており、顧客志向の評価や非財務指標の活用を伴う BSC の構造が、非営利組織における戦略の実行とその成果測定においても有効なツールとなると主張しています。

また、営利企業における BSC の適用では、顧客の視点やビジネス・プロセスの視点に基づいてアクションを取ることが、最終的に収益性や株主価値の増大等の財務的な成果に結びつくというロジックで説明されるのですが、非営利組織においては、その考え方が一部修正され、ビジョンやミッションの達成を最終的な目標にすることが合理的であるとしています。行政組織や医療組織への具体的な適用事例をあげながら、非営利組織の戦略構造とその成果を測定するための業績評価指標の考え方が解説されています。
 

小林麻理著『政府管理会計』
敬文堂、2002年.

(寸評) 3 冊目、 4 冊目は、行政と医療組織の視点に重点をおいた本を紹介しましょう。 3 冊目は、小林麻理著『政府管理会計』です。 1980 年代以降、財政構造の悪化したアングロ・サクソン系諸国では、民間企業における経営理念・手法、成功事例などを行政組織に導入することを通じて、行政組織の効率化・活性化を図ることが志向され、それらの諸活動は NPM ( New Public Management )と呼ばれるようになりました。本書は、米国の中央および地方政府におけるマネジメント・コントロールシステムをとりあげ、米国行政組織における NPM の実態を網羅しています。

まず、米国政府管理会計システムの制度構築の歴史的経緯を述べた上で、政府管理会計システムにおいて、戦略計画と業績評価がどのように構築されリンケージがはかられているか説明されています。そして、民間部門の業績測定指標の政府における適用可能性について、全米会計士協会と政府会計人協会が共同で行なった調査報告書を取り上げ、民間で導入されているマネジメント・コントロールシステムの導入が効率性や有効性を高める上で有用であることが主張されています。また、 ABC/ABM などのマネジメント・コントロールシステム、 BSC などの業績管理、戦略マネジメントシステムの行政組織への導入事例について詳細な事例紹介がなされており、その実務的な構造を十分理解することができます。
 

真野俊樹編著『21世紀の医療経営‐非営利と効率の両立を目指して−』
薬事日報社、2003年.

(寸評) 4 冊目は、真野俊樹編著『 21 世紀の医療経営』です。本書は、各章節を異なる筆者が分担していることもあり、章・節間のつながりがやや弱いと感じられるものの、医療組織をめぐる環境変化、米英を中心とした各国比較、医療組織のマネジメント・コントロールシステムを総合的に考察する上で役に立つと思います。

医療組織をめぐる環境変化の考察においては、医療サービスの制度的・経済学的視点に基づく特徴付けがなされていて、医療サービスは公益性が高いものの、その提供主体である医療組織は営利企業同様、マーケティング、戦略計画、生産性向上・効率化が求められる組織であると主張されています。各国比較においては、英国の病院評価指標の開発経緯などが解説されています。全国の病院を一定の指標で横並び評価する上で、被評価者側の医療組織に生じる部分最適化や近視眼的対応、不実表示などの問題への対応が迫られたことが記述されており、質的評価が重視される組織を評価することの難しさと可能性を考察する上で示唆の多い内容となっています。
 

H. T. ジョンソン、A. ブルムズ著(河田信訳)
『トヨタはなぜ強いのか−自然生命システム経営の真髄−』
日本経済新聞社、2002年.

(寸評) 5 冊目は、 H. T. ジョンソン、 A. ブルムズの『トヨタはなぜ強いのか』です。「非営利組織とマネジメント・コントロールシステム」というテーマでトヨタ関連図書を紹介する理由は次の通りです。著者は、生産システムにおけるトヨタ自動車とビッグスリーの対比を通じて、財務数値を中心とする量的な「結果による経営( MBR : Management By Results )」がアメリカ企業の衰退につながったと論じ、自己組織化、相互依存、多様性などの原理に基づくプロセスと人的能力を重視した「手段による経営( MBM : Management By Means )」こそが、長期にわたる安定的収益をもたらすと主張しています。プロセス、人的能力重視という点では、非営利組織のマネジメント・コントロールシステムを考察する上でも重要な示唆を得ることができると思われるというのが、本書を取り上げた一つの理由です。

また、本書は 2 人の著者によって書かれていますが、そのうちの一人、 H. T. ジョンソンは、 2 冊目にあげた図書の著者である R. S. キャプランと共に、 1980 年代に『レレバンス・ロスト』を執筆しました(オススメするまでもない名著です)。彼らは、短期の財務指標に偏重したマネジメント・コントロールシステムの有用性の低さを指摘し、財務的成果をもたらすプロセスを重視すべきだと主張しました。その後、 R. S. キャプランは ABC/ABM を経て BSC に辿りつき、 H. T. ジョンソンは MBM に至っています。 H. T. ジョンソンは『トヨタはなぜ強いのか』の中で、 BSC を「過去 50 年以上にわたって企業経営を形づくってきた量的で機械論的な思考を当然の前提としている」と指摘しており、両者の主張には違いがあります。他方、 両者の主張は、プロセスや非財務的な成果を重視すべきという点で共通しており、マネジメント・コントロールシステムにおいて、営利組織と非営利組織を区別すること無く共通の概念で捉えることができる可能性をもっています。 R. S. キャプランの本を読む上でも併せて読む意義は大きいといえるでしょう。
( Copyright © , 2005, 松尾貴巳)