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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

商学分野 教授 丸山雅祥

 

二十一世紀の幕開けを飾る論文が、ノーベル経済学賞の有力候補と目される二人によって公刊されました。J.C. Rochet and J. Tirole (2001), “Platform Competition in Two-Sided Markets”という論文です。デジタル技術革新が、産業の劇的な変化をもたらし、インターネットの普及とブロードバンド・アクセスが、企業の新たなビジネスモデルを生み出しています。「デジタル経済でいったい何が起きているのか、社会はどのような方向に向かっているのか」。こうした問題に世界中のひとびとが大きな関心を寄せています。この激動の方向性を読み取るためには、強力な理論が必要です。その先駆けとなったのがこの論文で、これを足掛かりに研究がぞくぞくと生まれています。今回は、この論文によって切りひらかれた「プラットフォームの経済学」について、注目すべき書物をご紹介します。


G. Illing and M. Peitz (eds.), Industrial Organization and the Digital Economy, (MIT Press, 2006)

本書は、ミュンヘン(独)にある有名な経済研究所(CESifo)で、2004年7月に開催されたコンファレンス(Understanding the Digital Economy)に提出された論文を集めて編集したものです。デジタル技術革新によって激変した2つの産業(ソフトウェアと音楽)に焦点を当て、実態の克明な記述と理論的な考察によって、デジタル経済社会の変革の方向性を読み取ろうとしています。2章と3章ではソフトウェア産業の変革、4章と5章では音楽産業の変革するプロセスが、みごとに描き出されています。6章から8章ではデジタル製品の企業戦略に焦点をあて、6章はバージョン戦略、7章は新製品の予告戦略、8章は著作権保護の戦略が論じられています。9章と10章ではeコマースがとりあげられています。なかでも、3章が本書の白眉です。コンピュータをベースとした5つの産業(メインフレームからパソコンまでを含む文字通りのコンピュータ産業と、それ以外に、家庭用テレビゲーム、ZaurusのようなPDA(携帯情報端末)、iPhoneのようなスマートフォン(PDA機能が付いた高機能携帯電話)、i-modeやiTunesのようなデジタル・コンテンツビジネス)のビジネスモデルについて、多くのケーススタディを扱いながら、これらの産業に見られる定型化された事実を、(観察1):個々の産業内でも、垂直統合の程度は企業ごとに異なっている、(観察2):補完製品の市場が発展することによって垂直統合の度合いが低下傾向にある、(観察3):個々の産業において、技術面では同様の選択がありえたのに、企業の戦略には顕著な差異が見られる、(観察4):ほとんどのMSP(マルチサイド・プラットフォーム)のプロバイダーは、利益の大半を一方のマーケットから得ている、(観察5):ハードウェア技術の進展によって、ハードとソフトが絶えず機能性を付加するかたちで進んでいる、という5つにとりまとめています。

D.S. Evans, A. Hagiu and R. Schmalensee, Invisible Engines, (MIT Press, 2006)

前掲の書物はアカデミックな香りのする内容となっていて、どちらかといえば研究者向けといえるようです。その第3章を執筆した3名が一般の読者向けに楽しく読めるように著したのがこの書物です。MIT Pressから有料で販売されていますが、同社のホームページから全文のPDF fileをフリーで入手することもできます(http://mitpress.mit.edu/catalog/item/ebook.asp?ttype=2&tid=10937)。とかく数式にまみれて難解な内容となりがちな専門論文とは異なり、本書ではプラットフォームの経済学の内容が手際よく平易なことばで解説されています。著者達は、経済学、歴史、ビジネスの分析をみごとにブレンドして、ソフトウェア・プラットフォームがどのように働いているのか、情報技術が目指しているのはどのような方向かを、みごとに指し示しています。ぜひご一読下さい。

 

A. Hagiu, Platforms, Pricing, Commitments and Variety in Two-Sided Markets, (VDM Verlag Dr. Muller, 2008)

名前から、萩生という日本人(?)と勘違いしそうなこの著者は、ハーバードビジネススクールで教鞭を執る歴としたフランス人。本書は、近年、この分野で華々しい活躍をみせ、世界的に注目を浴びている著者が、2004年にプリンストン大学に提出した学位論文。全体は、3章から構成され、第1章では製品バラエティの選択、第2章では価格競争、第3章では支配的なプラットフォームが生まれる条件について、数学的に武装されたモデル分析によって論じています。この著者は、最近、Harvard Business Reviewにも一般の読者向けの論文、What’s Your Google Strategy? (HBR, April 2009)を掲載しており、そちらの方も参考になるでしょう。

注記:今回のテーマについて、2006年、ビジネス・キーワードに掲載の拙稿、「市場の二面性(two-sided market)」もご参照ください。


(Copyright © , 2010, 丸山雅祥)