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アメリカのベンチャーファイナンスの歴史200年に学ぶ

忽那憲治

小野正人『起業家と投資家の奇跡:アメリカにおけるベンチャーファイナンスの200年』中央経済社、2013年。

アメリカ(とりわけシリコンバレー)は、ベンチャー企業の成長を支えるファイナンスシステムが世界で最も発達した国であることは多くの人が認めるところである。このアメリカモデルを導入しようと多くの国が模索してきたが、なかなか成功へと導くことができずに今なお苦労している。わが国も同様であり、そうした議論の中では、日本はアメリカとは違うのだから、アメリカをモデルにすることはそもそも無理であるといった指摘がされることもある。

同書の最大の貢献は、アメリカにおける起業家と投資家の歴史200年を振り返ることで、アメリカも日本で指摘されているような様々な失敗(例えば、株式会社としてベンチャーキャピタルを設立したことによる失敗、インセンティブ設計を 間違ったために優秀な人材を流出したこと、公的なベンチャーキャピタル制度を創設するも機能しなかったこと)を経験し乗り越えてきており、上のような安易な主張を退けることができる歴史的事実と視点を提供している点である。

本書を通じてのメッセージとして感じるのは、アメリカのベンチャーファイナンスは、「個人(富裕者)」からベンチャーキャピタルファームという「組織」への発展・展開の歴史と言えるが、ベンチャーファイナンスが有効に機能するには、この組織化という流れから、再度個人の能力を機能させることが不可欠であるということである。株式会社からパートナーシップへとベンチャーキャピタルの組織形態も大きく変化した。資金の提供者であるリミテッド・パートナーシップも以前の個人から、現在では年金基金を中心とする組織へと大きく変化した。しかし、アメリカにおいて形成されているベンチャーファイナンスのシステムは、こうした組織がゼネラル・パートナーであるベンチャーキャピタリストという個人を信頼して膨大な資金を提供し、ベンチャーキャピタリストはアントレプレナーという個人を信頼してそれらの資金を投資する世界である。組織が組織を信頼して資金を提供するのではなく、組織や個人が個人を信頼して資金を提供するという世界である。個人を信頼してリスクキャピタルを提供するシステムは、容易に想像できるように、実現することはなかなか難しい。故に、アメリカ以外の国において、ベンチャーファイナンスの仕組みの構築に今なお成功していないのかもしれない。本書はアメリカの歴史に学び、日本のベンチャーファイナンスのシステムをどうすべきかを考える上でとても重要な示唆を提供している。

Copyright © 2013, 忽那憲治