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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

商学分野 准教授 栗木契

 

電子書籍ビジネスを考える

本の未来をめぐる議論がかまびすしくなってきた。
電子書籍元年といわれる2010年。この年の1月には、アップルによる「iPad」の発売が発表された。先行して「キンドル」を投入していたアマゾンは、前年末のクリスマス商戦で電子書籍の販売額が初めて紙の本を上回ったことを発表した。国内でも、この年には、主要出版社などによる電子書籍開発団体や事業企画会社の発足が相次ぎ、12月にはシャープとソニーが、新しい電子端末の「ガラパゴス」「ソニーリーダー」を相次いで発売した。

今私が執筆しているような、紙の書籍を取り上げるブックレビュー欄が、過去の遺物となってしまう日も近いのかもしれない。紙の本も、レコードのように、好事家向けのものとなっていくのだろうか。あるいは、電子配信が主流となるなかで、音楽アルバムが廃れていったように、書籍のスタイルもまた変化していくのだろうか。 

今起こりつつあることが、グーテンベルクの活版印刷術が引き起こした変化に匹敵する、文化と社会の革命であるかどうかかについては、後生の判断を待たなければならない。とはいえ、われわれが今、書かれたものに対して持っていた態度や考えを、根本から見直すことを迫られていることは間違いない。加えて、この変化の大波を受けて、書籍や新聞をはじめるとする、紙を媒体としてきたメディア産業の事業システムの再編、電子コンテンツや知的生産物の権利をめぐる政治闘争、そして社会における知の創造と管理にかかわる地殻変動が進行している。この現在進行形の多方面に影響がおよぶ変化への理解を深め、ビジネスの可能性を検討したいと考える人たちにとって、見逃すことができない3冊を紹介する。

歌田明弘 著(2011)『電子書籍の時代は本当に来るのか』ちくま新書
 類書が多くある中で、本書が優れているのは、電子書籍ビジネスのこれまでの歴史的な展開と問題の広がりを、バランスよく踏まえている点である。冷静に考えれば、「電子書籍の時代が到来した」という宣告は、日本では1998年以降に何度も繰り返されてきた出来事である。また、電子書籍というと、最新の読書端末の使い勝手に注目が集まりがちだが、既刊本の電子化、フェア・ユースの線引き、ケータイ小説の今後、不十分な日本語対応フォーマット、そしてウェブ・ニュースの無料配信の持続可能性の問題等々、数多くの未解決の問題を電子書籍ビジネスは抱えている。電子書籍ビジネスの内外の動向に精通した著者が展開する、目配りの行き届いた記述と議論が魅力である。

岡本真・中俣暁生 編著(2010)『ブックビジネス2.0』実業之日本社
 電子書籍の登場と普及は、すでに社会に多面的な影響をおよぼし始めている。ライターという職業はどうなっていくのか。印税や著作権、あるいは図書館はどうなっていくのか。コンテンツ・ビジネスの破壊的イノベーションは起こるのか。本書は、ウェブ時代の書籍をめぐる多彩な論客の発言を収録することで、電子書籍化とは、単に紙に書かれたものが電子データ化するだけの変化でないこと、そしてそこに、どのような障害と可能性が存在しているかを浮かび上がらせることに成功している。

ニコラス・G・カー 著(2008)『クラウド化する世界』翔泳社
 電子書籍ビジネスを考える際には、すでにインターネットと情報産業が、クラウドコンピューティングをキーワードとする新しい時代に移行していることを理解しておく必要がある。本書は、インターネットの歴史に関する、数多くある好著の1冊である。本書がユニークなのは、この21世紀の新しいインフラ産業の勃興の物語を、20世紀初頭の電力産業の勃興の物語と対峙させながら描いていることである。この2つの事業システムの物語の提示は、単に一粒(一冊)で二度おいしいというだけではなく、その対比を読み手にうながし、インターネットと情報産業にとどまらない、事業システムのダイナミズムを深く考える手がかりを提供してくれる。

(Copyright © , 2011, 栗木契)