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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

経営政策講座 助教授  久保英也

 

最多の台風上陸に集中豪雨、大地震に火山の噴火と平成16年度は、自然災害リスクをあらためて認識させられた一年でした。被害額は1兆円を超え、損害保険会社は、保険金支払いのために過去蓄えた異常危険準備金の取り崩しなどの対応に追われています。ただ、自然災害リスクと言いましたが、日本の植林事業における針葉樹林の増加など人の手が災害を加速させている側面もあります。また、台風の軌道が日本直撃コースを辿る主因であるフィリピン沖での海温の上昇は、氷河や極地の氷の融解などを通じた海流の変化にあると言われています。リスクは、地球の温暖化など国を越えたグローバルな存在へ変化しています。

これだけ広域かつ波状的に自然災害リスクが顕在化すれば、安全か危険かという二社択一の基準ではなく、リスクを不確実性として捉え、(1)どのような望ましくない出来事が起こりうるのか、(2)起こりうる可能性はどのくらいか、(3)起こった場合の結果はどの程度かなどを、常に認識しておく必要があります。ただ、よく考えてみれば、リスクを評価し管理することは、家庭でも企業でも無意識の中で行っていますし、逆にそれに対応するための組織として、家庭や企業があるとも言えます。

その中で難しいのが、リスクや不確実性について、個人ごとに感じ方や捉え方に差があり、リスクへの対応も伝統的な経済学でいう超合理的な経済主体とはかなり異なる人間の行動を前提としなければならないことです。

ここでは、リスクに対峙する人間の行動に対し、興味深い洞察を加えた異分野の三冊を紹介してみたいと思います。

池田三郎・酒井泰弘・多和田眞編著『リスク、環境および経済』
勁草書房 2004年

(寸評)本書は、リスクを多様な視点から追い、その本質に迫ろうとしています。そこには、ゲーム理論によるグローバルな越境汚染分析や排出権の理論的根拠についての動学ゲーム論的アプローチなどテクニカルな内容も含まれます。一方、歴史的、文化的な考察が多く含まれ、一般書としても非常に興味深い内容となっています。例えば、イースター島文明の栄枯盛衰のプロセスやモアイ像建造のなぞを解く中で、住民の脱出も困難な南海の孤島で起こった栄枯盛衰が、同じく資源移動制約のある地球で発生する可能性をわかりやすく解説しています。囚人のジレンマに遭遇するイースター島の住民は、自然の再生率を超える経済成長(消費)を行い衰退の道をたどりますが、現在の地球でそれを避けるため、環境保全にかかわるグリーン市場への投資により成長を確保する仕組みづくりが重要としています。

リスク対策を積極的に採ることが下手な「天命をいわば運命として甘受する」日本人にリスクを正面から考えさせる一冊と言えるでしょう。

 

多田洋介著『行動経済学入門』日本経済新聞社 2004年(第二版)

(寸評)リスクを忌避するのではなく、物事の判断を確率的に行うことによりリスクを管理したり、収益機会に転化する人間の行動を描いています。ただ、そこに登場するのは、新古典派経済学に登場する完全無欠な人間ではなく、臆病で、感覚に流される「普通の人間」です。

経済理論のベースとなっている際限のない合理性と完璧な自制心そして極端に利己主義的な人間は、効用関数を自分自身の所得や消費のみで構成し、他人や他人と自分との関係を一切考慮しません。しかし、生身の人間は、「貢献すること」に価値を見出したり、他人の目を気にして敢えて非合理的な行動をとります。

例えば、二人の子供がいて、一方がアイスクリームの分け前を提案します。もう一方の子供がそれに応じるかどうかを決め、その子供が提案を拒否すれば、どちらも食べられずアイスは溶けてしまうという状況を想定します。この時、配分提案者は、自分の利得が最大となる 99 : 1 を選ばず、 60 : 40 や 50 : 50 を選択することが実験によりわかっています。

同様に、不確実性が存在した時の人々の行動を描いた「プロスペクト理論」などは、合理的な経済活動としては説明しにくい寄付行為や NPO の活動、そして株価形成過程などをうまく説明します。

本書は、確率論などもやさしくかつ具体的な数字で解説しており、難しい数式に悩むことなく、感覚的に最新の行動経済学の理論を体得することができます。

また、この心理学的なアプローチが、伝統的なミクロ経済学のすべてに置き換わるわけではなく、伝統的経済学とのバランスを取るべきとしている点も安心して読み進むことのできる理由だと思います。
 

下河辺淳監修、根本博編著『ボランタリー経済と企業』
日本評論社 2002年

(寸評)被災地の応援に駆けつける多くのボランティア。人の役に立ちたいという無垢な気持ちで多く人がボランタリーとして働き、そこには古典派経済学に見られる労働契約や消費・貯蓄の合理的な選択のみを行う人間の姿はありません。実は、この行動は NPO や公共部門など非営利組織においてのみ観察できるのではなく、利潤を極限まで追求する主体であるはずの企業においてもみられます。行動経済学の行動に従う人間が動かす NPO も団体を存続させるためには運営費が不可欠で、寄付や広告など営利活動が必要になります。そこで、巨大化し組織として動く非営利組織に、営利を追求する企業が学ぶという関係が発生します。また、この場合、企業の評価は財務分析を中心とした格付けによるものではなく、人間や自然の優しさにどれほど貢献したかが重要な基準となるはずです。

本書は、これらの論点が大まかな議論ではなく、アメリカにおける実態調査や国民経済計算などの統計をベースに展開されており、安定感が高いのが特徴です。

日本企業の強みは以前から従業員のボランタリー性にあったように思います。経済合理性のみに基づき動く社員ではなく、興味や好奇心に満ちたやる気がある社員の割合が高いこととそれを大切に守る経営システムが機能していたのでしょう。

自然災害リスクなど不確実性への対応にも、これら人間の非合理的な行動を効果的に結集することが重要であり、その方向性さえ定まれば、企業活動がそうであったように日本人はリスク対応を得意とする民族に生まれ変わると私は考えています。
 

 

寸評者の著書

  • 『生命保険ダイナミクス』財経詳報社、2003年
( Copyright © , 2005, 久保英也)