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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

経営情報科学講座 助教授  古澄英男

 

ご存じのように、統計学はデータ解析のための学問です。したがって、経済学、政治学、心理学、工学、薬学、医学など、文系・理系を問わずデータがあるところであればどのような分野でも統計学の知識が必要とされています。もちろん、経営学においても様々なデータを扱うので、統計学は重要な分析道具の 1 つとなっています。

さて最近では、非常に優れた統計ソフトが市販されています。そのおかげで、データ、コンピュータ、統計ソフト、この 3 点セットがあれば、誰でも簡単にデータ解析を行うことができるようになりました。極端な言い方をすれば、ボタンをクリックさえすれば(それなり)にデータ解析を行うことができます。このような状況は、データ解析に携わる実務家にとっては歓迎すべきことなのかもしれませんが、その一方で、適切でない統計手法が使われたり、得られた結果に間違った解釈を与えたりと、でたらめなデータ解析が行われているのを最近よく目にします。これは、統計学の知識がないままデータ解析を行っていることが 1 つの原因であると思います。

こうした統計学を勉強しないでデータ解析を行うことを、経営学研究科のある先生はデータ解析の「無免許運転」であると形容して戒めています。自動車の無免許運転が危険であるのと同じように、統計解析においても無免許運転は非常に危険で、誤った意志決定を行ったり、あるいは嘘の報告をしたりすることになってしまいます。やはり自動車と一緒で免許を取得してから、つまり統計学の知識をある程度身につけてからデータ解析を行う必要があります。

しかし、統計学は数学だという先入観から、統計学を学ぶことはハードルが高いと感じている人も多いと思います。そこで今回のオススメ図書では、こうしたハードルを多少なりとも低くしてくれる図書をまず 2 冊紹介したいと思います。

A.D.アクゼル著(高橋早苗訳)『偶然の確率』
アーティストハウス 2005年

(寸評)統計学の理論的基礎は確率論にあります。確率論の歴史は有史以前まで遡り、現在の確率論の原型は、17世紀のフランスでなされた賭博の必勝法に関する研究から誕生したと言われています。その後、数百年にわたって数々の確率に関する数理的な法則が導き出され、今日の確率論に至っています。

確率論と書くと難解だという印象を受けますが、本書では、(難解である?)確率論の基礎を、私たちが日常遭遇する様々な偶然を例にとって非常にわかりやすく解説しています。例えば、ギャンブルで最もリスクの少ない賭け方は?、最良の結婚相手を見つけるには?、あるパーティーで誕生日が同じである 2 人を見つけることができる確率は?、飛行機でとなりあわせた乗客と何か共通の話題がある確率は?、などです。これらの答えについては、本書を読んで確認してみてください。

 

柳井春夫・岩坪秀一著『複雑さに挑む科学 - 多変量解析入門』
講談社 1976年

(寸評)経営学では、データを分析するときに多変量解析とよばれる方法がよく用いられます。多変量解析とは、互いに関係のある複数の変数に関するデータを使って、そのデータから有益な情報を引き出したり、あるいはデータの背後にある複雑な関係を明らかにするための統計的手法です。本書はこの多変量解析の入門書です。  

多変量解析には様々な方法がありますが、本書では、因子分析、主成分分析、回帰分析、判別分析、数量化理論など、経営学のデータ解析で用いられている手法のほとんどがカバーされています。本書では多くの実例が取り上げられていますので、各手法の特徴や多変量解析によってどのようなことが明らかになるのか、またそのメリットは何なのかがよく分かります。先に紹介した本と違い、本書では若干の数学を使って説明がなされていますが、数式を多少読み飛ばしても理解できると思います。

多変量解析に関する書籍は数多く出版されていますが、初めて多変量解析を学ぼうとする人には是非最初に読んでもらいたい 1 冊です。本書によって多変量解析の全体像をつかんだ後、巻末にある参考文献などを手がかりに、各手法の詳細については別の書籍を参照することをお勧めします。

先に、データ・コンピューター・統計ソフトがあればデータ解析を行うことができると述べました。コンピューターと統計ソフトはお金さえあれば揃えることができます。しかし、データは自分で調査を行って収集しなければならない場合があります。統計解析ではデータが命ですから、適切な調査を行ってデータを収集する必要があることは言うまでもありません。しかし、最近では、安易にインターネット調査などに頼ってデータを収集している人たちが多いのも事実です。こうした状況に対して、数量化理論で有名な林知己夫先生が次のように述べています:

(中略)

今日の多くの電話調査・インターネット調査を本文に書いたように「使うべからざるところに使う」調査改革者は、調査の良心を捨て、いわば邪教の教理を信じ込む者であり異端的である。このような異端的な調査は各方面に亘って強力に浸透しつつある。私は「調査における古典王美を中心に据え、モダニズムを加味し、各種調査法を所を得しめて用いる」という保守主義・守旧派を誇りとし、その旗印をかかげ、並みいる「調査改革者」の群をなぎ倒しにかかるつもりである。

これが有用なるべき科学的調査を存続させる唯一の道であり、調査者の生き残る唯一の道であると思っている。

(「いま調査者が心がけること」新情報センター機関誌「新情報」 86 号から引用)

非常に強烈な文章ですが、何らかの調査を行う者全員にとって心しておきたい内容だと思います。経営学では、よくアンケート調査などを通じてデータを収集していますが、今一度どのような調査を行ったら良いのかについて考えてみる必要があるのではないでしょうか。このようなとき参考にして欲しいのが最後に紹介する書籍です。
 

E.F. ストーン著(鎌田伸一・野中郁次郎訳)『組織行動の調査方法』
白桃書房 1980 年

(寸評)私は調査方法についてはあまり詳しくなかったので、経営学研究科の他の先生に勧められて最近読んだのが本書です。これまでに紹介した 2 冊に比べると、少し専門的かもしれませんが、多くの示唆に富んだ良書だと思います。

本書は、組織行動を研究する際になぜ調査方法が必要なのかをやさしく説いています。それと同時に、組織行動における調査方法が抱えている問題点を丁寧に議論しています。このような問題として、調査プロセスを構成する内容、測定の信頼性と妥当性、測定方法、サンプリング方法、調査デザインなどが取り上げられており、これらの点に十分注意しながら調査を行う必要があると改めて認識させられます。

訳者が指摘しているように、本書は米国での出版を目的としたため、日本においてそのまま適用することはできない点がいくつかあります。しかし、それでも調査を行う人にとっては有用な 1 冊であるのは間違いありません。

データ解析は地味で労力と時間の要する作業です。しかし、このような作業をきちんとこなせるようになることが、研究や実務においても重要であると思います。経営学研究科には、経営学の理論だけでなくデータ解析も行えるスタッフがたくさんおり、こうした点が本研究科の強みの 1 つではないかと最近感じています。
( Copyright © , 2005, 古澄英男)