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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

商学分野 教授 黄りん

 

これからの成長戦略を考えたときに、日本国内だけでビジネスをやり続けるのではなく、経済成長や人口増加の著しい海外市場に出て行くことが不可欠だと感じている経営者が増えています。国内では、人口減少と高齢化社会の中で効率的な利益中心の経営が求められている一方で、激化する競争の中で異業種へ参入し多角化によるビジネス拡大の成功確率が必ずしも高くありません。だからこそ、いま日本企業の多くは海外に目を向けた成長路線を主軸に考えています。
国内市場を基点にして海外市場を捉えるということは、これまでの日本企業の国際化戦略に関して支配的な論理となっていました。そのために、携帯電話端末のように、日本国内で進化を遂げて素晴らしいと思われているビジネスモデルは世界市場ではかならずしも通用しません。国内市場を基点にした戦略には、いわゆる「ガラパゴス化」する危険性をはらんでいるのです。
グローバル・マーケティングや新興市場などのテーマをとりあげている専門職大学院の講義においても、地球的規模の市場を捉えるための基点を転換することの重要性をしばしば感じることがあります(注)。しかしながら、国内市場にとって代わって、新しい基点をどこに置くのかという問いに関する答えは、おそらく企業のグローバル化戦略の出発点となるであろう。その答えを考えるための材料として、今回は2005年以降に出版された図書を2冊ご紹介します。

トーマス・フリードマン(著)、伏見 威蕃 (訳)『フラット化する世界(上・下)』(原題 The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Century)(日本経済新聞出版社)

この著書は、アメリカを基点に21世紀初頭の世界市場とグローバル化の動向を分析した本であります。上下の訳本は2005年に初版、2006年に増補版が発売されたが、原書はニューヨークタイムズ・ベストセラーになっています。
インターネットなどの情報通信技術の発達、そして、ブラジルやインドなど新興国の経済成長により世界の経済は一体化し、地球のどこに居ても同等な条件での競争を行う時代にいたると述べています。
著者は2000年前後から、世界はパソコン、光ファイバーやインターネットを活用したICT技術により、まったく新しい時代に突入したとして、これをグローバリゼーション3.0であると時代区分します。また、今までは「丸かった地球」が「フラットな世界」に変わりつつあるとして、先進諸国の個人のみならず、かつては共産圏に属していた東側の諸国、中国やアジアの発展途上国もグローバリゼーション3.0の輪の中に入ってきたとしています。
この著書では、アメリカという国内市場を基点にして地球的規模の市場を展望しています。そのため、アフリカやイスラム諸国についてほとんど触れられていません。また、BRICsのように、インド、東欧(ロシア)、そして中国の順で新興市場の変化を捉えていることも、アメリカ人やアメリカ企業の世界市場の捉え方を示しています。

C. K. プラハラード(著) 『ネクスト・マーケット』(原題 The Fortune at the Bottom of the Pyramid: Eradicating Poverty Through Profits)(英治出版、2005年)

日本でも、2008 年からBOP ビジネスへの関心がにわかに高まっています。国際経営の学会ではBOP ビジネスをめぐる議論が活発化し、日本政府も本格的な取り組みを開始しています。
BOP ビジネスとは、地球上の約40 億人の貧困層を市場とみなし、それまで無視されてきた貧困層固有のニーズを見つけ出してそのニーズを満たすための製品やサービスを革新的な方法で提供することです。
この著書は、BOPビジネスの嚆矢とされます。その中でBOP市場におけるイノベーションに関する12の原則をうたっています。その一、コストパフォーマンスを劇的に向上させる。その二、最新の技術を活用して複合型で解決する。その三、規模の拡大を前提にする。その四、環境資源を浪費しない。・・・・・その十二、これまでの常識を捨てる、とあります。
先進国市場やBRICsなどの新興市場を有望な海外市場と、フラットとなっている世界地図を眺めながら考えがちの人には、この著書は、ピラミッドのような地球的規模の市場に関する新しいイメージを描き出しています。そして、このピラミッドの底辺にある巨大な市場を開拓するという斬新な経営課題を提起しています。

(注)新興市場とグローバル・マーケティングの視点については、拙著『新興市場戦略論』(千倉書房、2005)も参照してください。
(Copyright © , 2010, 黄りん)