わたしは学部生対象の人的資源管理論の講義の中で、日本的経営のいわゆる「三種の神器」について説明する際に、「日本的経営という言葉は最近ではあまり使われず、死語のようになってしまいましたが・・・」という枕詞を付けることにしています。 1980 年代、アメリカをはじめ世界中から高業績を達成するシステムとして注目を集めた日本的経営は、長引く不況による日本企業の業績低迷とともに、ポジティブな文脈において語られることがすっかり少なくなってしまいました。一般的には、日本的経営が高業績を達成し得たメカニズムの根底には、従業員という人的資源を大切にする日本企業の哲学と、それを基礎にした日本企業社会特有のコミュニティが存在していたためではないかと言われています。しかし、バブル崩壊後の日本企業の業績低迷は、移り気なアメリカ企業には、日本的経営がやはり時代遅れのシステムである何よりの証左で、 80 年代の日本企業の活躍はほんの一時的な栄光に過ぎなかった、と映ったようです。実際、 90 年代初頭には、日本でもアメリカでも、アメリカ企業のやり方こそが正統であり、「グローバル・スタンダード」なのだとする見方が広く一般に流布するようになってきました。
では、日本的経営は本当に過去のものになってしまったのでしょうか?日本企業独自の経営システムは完全に消滅してしまったのでしょうか?このようなグローバリゼーション下における日本企業のマネジメントのあり方について深く考えるためのヒントとなる書物を、以下に 3 点ご紹介しましょう。 3 点とも外国人によって書かれた著作で、日本企業社会や東洋的発想法の特徴を外部者の眼から鋭く観察・考究している、非常に興味深い良著です。
ジェームズ・C・アベグレン著(山岡洋一訳)
『新・日本の経営』
日本経済新聞社、2004年。
(寸評)本書の著者アベグレンは、既に 1958 年に『日本の経営』を出版し、日本的経営のいわゆる「 3 種の神器」(終身雇用、年功賃金、企業別労働組合)を指摘した日本的経営論のいわば“生みの親”的存在です。前著『日本の経営』の出版から 50 年近くを経た今、グローバル化や高齢化、人口減少といった環境変化のもと、日本企業がこれまで実際どのように対応してきたのか、そして 21 世紀の日本企業が維持し活用すべき強みとはどのようなものであり、日本企業は今後いかなる道を歩んでいくべきか等々のトピックスについて、わかりやすく解説されています。
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