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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

経営学分野 准教授 久本久男

 
マイケル・S・Y・チウェ[2003]『儀式は何の役に立つか』(安田 雪訳)新曜社
Michael Suk-Young Chwe [2001] Rational Ritual: Culture,Coordination,and Common Knowledge,Princeton University Press.

この本のテーマは、共有知識(common knowledge)です。議論は厳密に展開されているわけではありませんが、共有知識を理解するためのイントロダクションとしては良い文献です。とくに、1)共有知識の生成、2)意思決定における共有知識の役割についていろいろな議論が展開されています。共有知識とは、情報共有(ある事実を皆が知っている)とは異なります。共有知識とは、認識の階層の1つです。ある事実が共有知識であるとは、1)ある事実を皆が知っている、2)「ある事実を皆が知っている」ことを皆が知っている、3)そして、これ以降も「皆が知っている」という階層が無限に継続する認識状況です。そして、これが人々の意思決定に影響を与えることは、つぎの協調問題に関する引用文で理解可能でしょう。

 
「ルソー(Rousseau、[1755]『Discours sur l'origine et les fondements de l'inegalite parmi les hommes』、London:Penguin Books、本田喜代治・平岡昇訳、[1984]『人間不平等起源論』、岩波文庫)の、他の人々と一緒に鹿を狩るか、ひとりで兎を狩るかという「鹿狩り」の話はよく引用される。もし、全員で鹿を狩るなら成功するし、誰もが兎一匹よりもたくさんの食料を得ることができる。しかし、もし、二、三人で鹿狩りに出ても間違いなく獲物はとれず、兎を一匹でも得たほうがよかったということになる。したがって、他の人々も行く時だけ鹿狩りに行くだろう。「明日の日の出に、鹿狩りに行こう」というメッセージを口頭で広げることもできるが、もっと有効なコミュニケーションの方法は、集会で一堂に会し、皆が計画を知るようにするだけではなく、ただちに全員が他の人々もその計画を知っているとわかるようにして、共通知識を形成することである。」
(p.34)
 

イトーヨーカ堂が、店長会議、業革会議を東京で毎週開き、全国の店長やゾーンマネージャー等をそれぞれの会議に集めることは有名です。これらの会議におけるトピックスが会議参加者の間で共有知識になることは明らかです。どのような条件があるならば、この共有知識が鈴木敏文氏のつぎのような発言につながるのか考察するためにも、この文献を一読する価値はあるでしょう。

 
「世のなかの生活状態が変化しますと、組織というのはそれぞれの部署のひとが同じように1つのことに対し認識し、行動に移すということは非常にむずかしいですね。が、皆が揃わないと組織の仕事にならないので、だったらやはり続けざるを得ないと...カンフル剤的な活性化の店長会議ではないのですし、やむを得ませんよ」
(塩沢茂[1989]『イトーヨーカ堂店長会議』、講談社文庫.p.168)
 
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