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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

産業遺産

平野恭平

日本の世界遺産暫定一覧表記載遺産には,城郭,寺院,神社の他に,「富岡製糸場と絹産業遺産群」(2007年),「九州・山口の近代化産業遺産群」(2010年),「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」(2011年)といった産業遺産も含まれています。私の専門は経済史・経営史ですので,自然とこのような産業遺産にも関心をもちます。産業遺産の定義は様々にあるのですが,今回推薦する図書(1)で採用されている「概ね明治以降の産業化・近代化に関連した,あるいは産業技術に関連した遺産」というのが無難なところではないかと考えます。建造物・遺構,機械・装置,図面,契約書・仕様書など,多種多様なものが含まれる産業遺産は,世界遺産登録を目指すようなものに限らなければ,意外と身近な所に散在しています。

神戸市をみると,「六甲山ホテルと六甲観光関連遺産」,「神戸港の港湾施設群」,「神戸税関本館」,「旧居留地煉瓦造下水道」,「中央区海岸通の商業ビル群」,「神戸港周辺の銀行ビル群」,「灘五郷の日本酒醸造関連遺産」などがあります。現存する産業遺産の中には,歴史的な価値から保存されているだけではなく,イベントの開催や観光資源としての活用など,地域振興に役立てられているものもあります。

しかしながら,後世に残すべき貴重なものであるにもかかわらず,廃棄されたり解体されたりする産業遺産も少なくありません。それは,歴史的な価値が理解されない(というよりも知られていない)こともありますし,企業であれば,経営資源を有効に使うためにやむを得ず廃棄や解体を決断するということもあります。余談ですが,建築史を専門とする方が企業の所有する古い建物の調査に行くと警戒されることがあるそうです。その建物が文化財にでも指定されると面倒なことになるからです。また,地方自治体が管理・所有するものでも,安全性や財政難を理由に廃棄・解体されることもよくあります。

産業遺産については,歴史的な価値があるというだけで,すべてのものを残すことは難しいと思われます。しかし,私としては,明治以降の産業発展の軌跡を少しでも残したいと思っています。そのためには,まずはこの産業遺産がどのようなものであるのか,どれだけのものが残っているのか,それを後世に残すためにはどのような方法があるのか,これらを少しでも知っていただくことが大事であると思っています。

ここで推薦する図書は,MBAでの勉強とは関係がありません。しかし,文化財以外にも,現在の日本を築く過程で作られてきた様々な遺産があることにわずかながらでも関心をもっていただければ幸いです。仕事のない日や勉強の合間などの息抜きに身近にある産業遺産を散策してみてはどうでしょうか。その遺産にどのような歴史があるのかをインターネットや本で調べてみてはどうでしょうか。ささやかでも新しい発見があるかもしれません。

図書(1) 平井東幸・種田明・堤一郎編『産業遺産を歩こう 初心者のための産業考古学入門』東洋経済新報社,2009年。

産業遺産の解説や歩き方に加えて,産業考古学という学問も紹介しています。少々マニアックになりますが,産業考古学会の学会誌『産業考古学』も面白いかもしれません。

文献(2) 日刊工業新聞編『産業遺産 時を超えて輝く』日刊工業新聞,2010年。

有名な産業遺産を豊富なカラー写真とともにわかりやすく紹介しています。

文献(3) 産業考古学会・内田星美・金子六郎・黒岩俊郎編『日本の産業遺産300選 1』
同文舘出版,1993年。

文献(4) 産業考古学会・内田星美・金子六郎・前田清志編『日本の産業遺産300選 2』
同文舘出版,1994年。

文献(5) 産業考古学会・内田星美・金子六郎・大槻貞一編『日本の産業遺産300選 3』
同文舘出版,1994年。

写真は少ないですが,多くの産業遺産をコンパクトに紹介しています。各項目にそれぞれ関連産業遺産や参考文献が示されているので便利です。

ちなみに,神戸大学にも産業遺産があります。興味があれば下記を参照して下さい。
神戸大学経済経営研究所経営機械化展示室
神戸新聞2014年3月24日

Copyright © 2014, 平野恭平