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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

経営学分野 准教授 平野恭平

 

最近、“歴史”が脚光を浴びています。ビジネスについても、その歴史を研究する分野があります。それが今回のテーマの「経営史(Business History)」です。経営史の源流を遡ると経済史、さらにはドイツ歴史学派に至りますが、実際には1920年代のアメリカで誕生しました。過去の企業経営に関する様々な経験と知識を通じて、ビジネスマンを養成することを目的として、ハーバード・ビジネス・スクールのカリキュラムに導入されたのです。残念ながら、現在、神戸大学MBAには経営史の名を冠した講義はありませんが、高度専門職業人を養成する上で重要な科目であるに違いないと私は確信しています。

そこで、最初に紹介する図書は、【宮本又郎・粕谷誠編『講座・日本経営史1 経営史・江戸の経験』ミネルヴァ書房,2009年】、【阿部武司・中村尚史編『講座・日本経営史2 産業革命と企業経営』ミネルヴァ書房、2010年】です。これは続刊中であり、全6巻となっています。経営学や商学の中に、経営戦略、経営組織、人的資源管理、生産システム、国際経営、企業間関係、マーケティング、流通、ファイナンスなど、多くの分野があるように、経営史の中にも、経営学や商学の分野の数だけ研究領域があるということができます。経営史家は、各自の関心に基づいて、その分野を史的に研究しているのです。これらをすべて網羅することは至難の業ですが、『講座・日本経営史』では、各時代の企業経営の重要な点を押さえるように編集されており、章間にある「関説」で概念整理や外国経営史の説明もあり、最新の研究を理解する有益な図書となっています。また、このような経営史のシリーズには、絶版になっていますが、日本経済新聞社から出版された『日本経営史講座』(全6巻)、岩波書店から出版された『日本経営史』(全5巻)などもあります。最初から最後まで読み通すことも大事ですが、現在自分が関係している産業・職能や今後研究したいと考えている経営機能など、まずは何か1つに焦点を絞って、それについて時代の変遷を読み解いていくことも1つの方法です。そして、これを手がかりとして、経営史の世界に関心をもっていただければと思います。

次に紹介する図書は、【アルフレッド・D・チャンドラーJr.(有賀裕子訳)『組織は戦略に従う』ダイヤモンド社、2004年】です。故:アルフレッド・D・チャンドラーJr.先生の名前とあまりに有名な「組織は戦略に従う」というフレーズは、経営史の研究者でなくとも、経営学を学ぶ人であれば見聞きしたことがあるかと思います。この古典的名著については、三菱経済研究所の翻訳により『経営戦略と組織』という名前で1967年に実業之日本社から出版されています。私が大学院に入学する前、指導教官から読んでおくように指示された図書の1つが同書でした。個人的には、その時読んだ三菱経済研究所版の方が好きですが、すでに絶版になっており、また一般的には新訳版の方が読みやすいかもしれません。同書については、その内容を紹介する文献やホームページがたくさんあるため、ここであえて取り上げることはしません。興味のある方は、簡単なものとして、【桑原哲也「古典の香り Alfred D. Chandler『Strategy and Structure』」『ビジネス・インサイト』第63号、2008年10月、45頁】を読んで下さい。ただ、1点ほど書きます。同書の経営史研究としての価値です。同書については、「組織は戦略に従う」という命題が独り歩きしがちですが、アメリカの大企業での事業部制成立のプロセスをあくまで歴史研究として明らかにするためのものであったことです。外部環境が変化する中での経営の主体性を一次資料に基づいて描き出した事例研究、それを通じた類型化による全体像の提示を可能にした比較経営史の手法は、分析的経営史の始まりであり、その後の経営史研究に多大な影響を及ぼしました。同書を通じて得られる方法論上の理解は、経営史のような歴史研究を行う人に限らず、理論研究の中でケーススタディの方法論を用いようとする人にも非常に有益であると思います。

世間の“歴史”ブーム?に乗って1つ経営史の世界に足を踏み入れてはいかがでしょう。


(Copyright © , 2010, 平野恭平)