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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

会計学分野 教授 後藤雅敏

 

会計を学習するときに重要なことは、読んで分かりやすい教科書にめぐり合うことです。良い教科書の判断基準は、会計の難解な専門用語を、さらには修飾関係にまちがいが出ないように、細かく書かれた会計基準を、いかに簡潔な表現で、かつ数値例も含めて、わかりやすい文章に要約しているか、ということです。

ちなみに、以下でわたくしが選んでいる書物は、これらが、もし35年前に出版されていたら、わたしは会計の学者にならず、おそらく違った職についていたと言えるだろうと思います。
当時、大学生だったわたくしが購入した教科書は、本当に分かりにくい文章で書かれていました。しかし、それが効果を表わしたのか、その書物の題名が評判を呼んだのかはわかりませんが、その本はベストセラーであり、会計の初学者が読むべき本となっていました。
ただ、わたくしには、その本の内容の中に理解できない部分が多々見られました。会計では、会計基準と実務をつなぐのが教科書の役割ですから、それが出来ていない教科書は、教科書とは言えません。そしてその本を読んだわたくしは、この道に入ろうと決心したのです。もっと分かり易い本を書くために。

櫻井久勝著『財務会計講義・第11版』(中央経済社、2010年)

会計は、日々変化を遂げていく制度を問題にしている学問です。2001年に設立されたわが国の企業会計基準委員会は、企業会計の様々な基準を公表していますが、その数は2010年までに既に20を超えています。1年で2本以上です。その割合は、将来も減少することはないと考えられ、企業の活動が日々変化している現在では当然だといえます。 たとえば、「リース取引に関する会計基準」、「退職給付に係る会計基準」、「金融商品に関する会計基準」がその例です。企業会計基準を読まれた人なら分かると思いますが、ひとつひとつの基準がかなりの量で、読み終わるまでに嫌になってしまいます。
それら20以上の基準を、すべて網羅して、かつ理解しやすい日本語で、表現してある本が、上記の本です。しかも、それまでの基準とその変更点を分かり易く解説してあります。分かりやすい文章、理解しやすい数値例、そのどれもが教科書に値する本であるといえます。わが国では、多くの教科書が出版されていますが、読み易さという点からはこの本の右に出る本はないでしょう。
出版社の営業政策として、自分の書いた専門書を教科書として利用する風潮がわが国の大学ではあります。それは、売れるからです。しかし、そのような本の中には教科書として認められないような本も多々含まれています。そうした中、第11版も増刷を重ねた本を、読んでは見たくなりませんか。

櫻井久勝著『財務諸表分析・第4版』(中央経済社、2010年)

同じ著者の本ですが、分かり易い文章で書かれている点は、上記の本と同じです。
日本に住んでいる我々としては、わが国のデータを用いて企業分析を進めたいと考えています。諸外国とデータが異なっているため、出来ることならわが国のデータを使った分析のほうが、分かり易いからです。この本の優れた点は、そうしたわれわれの思いを捉えたのか、わが国のデータを用いて分析が進められています。外国の著名な学者が書いた本はそれだけで有り難がられます。企業財務や証券投資の分野ではアメリカの研究者が書かれた文献を利用して、それを訳した形で企業分析が行われています。そうすると、日米の制度の違い、たとえば税金の計算が日米で違っていること、で日本の値とアメリカの値の比較が難しくなります。それは、一株当り利益の計算まで関ってきますので、影響は甚大です。
その点、筆者は日本の会計学に精通していますので、両者の違いを考慮した上で、計算手順を本の中で分かり易く教えています。それは、企業外部の人が分析できるように、わが国の会計制度で公表されているデータを用いて分析が行われていることで、実現されています。読者の皆さんは、会計の基準に見られる日米の相違を考えてまで、一株当り利益の比較などしたくはないでしょう。
この本は、企業データ(有価証券報告書)の読み方から始まっています。そして、ファンダメンタル分析から諸比率間の関係にまで説明は及んでいますので、教科書としては十分です。いま流行の資本コスト、倒産分析や会計ベータまで書かれています。

伊藤邦雄著『企業価値評価』(日本経済新聞社、2007年)

『企業価値評価』という題名を耳にした人は、経営財務論や証券論を中心に研究している研究者が上梓したのだろう、と想像するかもしれません。しかし、この本は、わが国で一流の会計学者が出版しています。『企業価値評価』は、表題が表わしているとおり、企業がいくらで価格付けられるのかを扱った本です。企業が公表する財務報告書は、「企業評価」書と同じことを意味しています。だから、財務報告書をみれば、企業の価値は分かってきます。
これまで、企業の価値を評価するときには、損益計算書の最終ラインに記載されている利益数値しか興味がありませんでしたので、会計学以外の研究者も企業価値評価に関する本を出版していました。しかし、財務報告書のそれぞれの行(ぎょう)がそれぞれに意味を持ってくる時代になると、そのそれぞれの行を解釈しなければならなくなります。そうした時代は会計学者の出番です。会計の分析が必要不可欠です。この本も上で紹介した本と同じように、その始まりには会計に関する説明があります。それが、それ以降の分析の中で活かされています。つまり、ファンダメンタル分析から経営戦略分析、会計戦略分析という流れの中で、はじめに習得した会計の知識が活きて来るように、構成が為されています。
また、この本もわが国の企業例を用いた本で、多くの数値例がわが国企業のデータで示されていることも、前者の本と同じです。加えて、M&Aや無形固定資産など、会計に特有のテーマを扱っていることでも、お奨めの本です。

(Copyright © , 2010, 後藤雅敏)