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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

商学分野 教授 藤原賢哉

 

バブル崩壊後の金融システム危機を乗り越え、都市銀行などの大手銀行は3つのメガバンクと1つの金融グループに再編・集約されました。これらのメガバンクの再編・合併の評価については様々な議論があるものの、メガバンクを巡る環境変化が一段落したのは間違いありません。これに対して、地域金融機関については、限界的な信用組合や信用金庫についての合併・統合はあったものの、多くの地方銀行(地銀、第2地銀)では、目に見えた改革は起こっておらず、旧来の経営体制が維持されたままになっています。この背景には、金融当局が不良債権処理を進めるにあたって、大手行に関しては、合併・再編による効率化が必要と考え、不良債権の圧縮・処理を強力に進めたのに対して、地域金融機関に関しては、より緩やかな対応を採ったことが大きいと考えられます。地域金融機関は、大手行とは異なり、都心部への一極集中や労働力不足、少子高齢化、官需への依存など、地域経済が抱える構造的な問題に直面しており、さらには、環境問題や将来の道州制の導入など、ある意味ではメガバンクよりも厳しい経営環境に置かれていると言っても過言ではありません。こうした問題意識から、近年、地域金融にスポットを当てた書物が数多く出版されています。そこで以下では、これらの書物の中から、代表的と思われるものについて紹介することにしましょう。

村本 孜(著)『リレーションシップ・バンキングと金融システム』(東洋経済新報社, 2005年)

まずは、リレーションシップ・バンキングの観点から地域金融機関の役割について広範な考察を行っている、村本孜『リレーションシップ・バンキングと金融システム』について紹介することにしましょう。リレーションシップ・バンキングとは、一般的には、「金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデル(金融審議会金融分科会第2部報告『リレーションシップ・バンキングの機能強化に向けて』)」とされていますが、誤解を恐れずに言えば、不良債権処理を急速に進めない代わりに、金融当局が地域金融機関に対して導入を迫ったビジネスモデルといっても良いかもしれません。村本氏の著書は、このリレーションシップ・バンキングについての先行研究を紹介すると共に、情報の非対称性や契約の不完備性などの理論的観点からリレーションシップ・バンキングの経済合理性について議論を行っています。さらに、金融システムのあり方という観点から、リレーションシップ・バンキングとは異なる市場型間接金融モデルを導入することの重要性についても言及しています。また、地域金融機関と公的金融機関との関係(あるいは民営化後の日本郵政との関係)や、諸外国の金融システムとの比較(リレーションシップ・バンキング型と市場型間接金融等の複線型モデルの主張)、先端的なIT技術(スコアリングモデル等)の地域金融機関への影響等、広範な観点からリレーションシップ・バンキングの意義や役割について分析している点が特徴的です。但し、本書では、どちらかといえば、理論的な分析が中心であり、また、個人顧客を対象にしたリテール金融については分析されていません。後者の問題に興味のある読者には、同著者による『制度改革取リテール金融』の一読をお勧めします。

 

筒井 義郎,植村 修一(編)『リレーションシップ・バンキングと地域金融』(日本経済新聞社, 2007年)

次にお勧めしたいのが筒井義郎・植村修一編『リレーションシップ・バンキングと地域金融』です。村本氏の研究がどちらかといえば理論・国際比較研究が中心であったのに対して、筒井・植村氏の本は、わが国の実際の中小企業に関する大規模なデータベースやアンケート調査を用いて実証研究を行っている点に特徴があり、この分野におけるパイオニア的な研究書物になっています。これまでの日本の金融機関の実証研究は、おもに銀行や大企業の財務データに依存した研究が多かったのですが、彼らの研究は、経済産業省のバックアップ(企業金融環境実態調査、CRD(中小企業信用リスク情報データベース))のもとに、日本で初めて中小企業の個票データを用いて包括的に中小企業と銀行(地域金融機関)との関係にメスを入れたものです。また、これまでの地域金融の研究は、特定の地域の金融の特徴を記述したものが多かったのに対して、地域金融を日本経済全体の視点から、経済理論に基づいて分析するところに特徴があります。例えば、地域金融では、借入金利が他県に比べて高いケースが少なくなく、さらにその原因の一つが他県より少ない銀行数にあることが明らかにされていますが、このことは地域金融には寡占の問題が存在することを意味しており、地域を超える競争の促進が重要であることを示唆しています。また、リレーションシップ・バンキングと地域寡占との関係については、金融機関の競争の結果、リレーションシップが強化されると言う可能性もあり、必ずしも矛盾するものではないと議論されています。

 

堀江 康熙(編著)『地域金融と企業再生』(中央経済社, 2005年)

   最後に紹介するのが、堀江康熙編著の『地域金融と企業再生』です。この本は、先の2冊がリレーションシップ・バンキングに焦点が当てられていたのに対して、よりひろく地域金融の問題について分析を行ったものです。具体的には、地域金融機関の現状および経営上の課題について概観した後、地域金融機関の営業基盤である地域経済の問題(都心部への一極集中、地域間資金の移動の可能性)および中小企業の抱える問題(過剰債務や後継者難の問題)について取り上げ、地域の発展と地域金融機関の役割と限界について考察しています。また、既存の地域金融機関とNPOやコミュニティビジネスの関係や現状についても整理を行っています。 本書の特徴としては、地域の金融のあり方について、単に金融機関サイドだけではなく、地域経済及び企業サイドからも分析を行っている点にあります。東京への一極集中は、東京に収益性の高い企業が集中しており、かつ集積のメリットが見込めるのであれば、災害リスクの増大をのぞいて、それほど大きな経済問題ではないかもしれません。しかし、地方にも潜在的に有望な投資機会が存在し、取引コストや情報の非対称性により、投資収益が実現しないのであれば、一国の経済全体としても大きな損失になるでしょう。域内の有望な投資期会を発見し、かつ、域内・域外のスムースな資金移動を実現することが、地域金融機関の果たすべき役割なのです。また、人口減少・少子高齢化を迎えるわが国にとっては、NPOやコミュニティビジネスとの関係をどう構築するかという点も重要な視点です。本書は、豊富なデータを使って、読者によりわかりやすい形で(経済学的な説明に偏らない記述で)、地域金融の現状と課題を正確に伝えようとするものであり、このスタイルは十分評価されてしかるべきでしょう。

(Copyright © , 2008, 藤原賢哉)