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DIPファイナンス(debtor in possession finance)
藤原賢哉

DIPファイナンスとは、民事再生法や会社更生法などの法的整理下にある企業向けの短期融資のこと。不良債権問題の裏側にある債務過剰企業の再生という観点から最近注目を集めている。もともとは、米国の連邦破産法第11条の適用を受けて、経営破たん後も経営陣がとどまる形(debtor in possession)で再建計画が策定される企業に対して、人件費や原材料費などの当面の運転資金を融資する目的で行われる。通常、企業が破たんすると仕入れ先業者が手形でなく現金払いを要求し、急速に資金繰りが行き詰まることが多い。そこで当座の運転資金もしくは融資枠を提供し、資産価値の劣化をくい止めるのがDIPファイナンスの役割である。米国では、1990年代前半に旧ケミカル銀行やGEキャピタルなどを中心に融資残高が拡大し、1999(平11)年の市場規模は約58億ドルに達している。一方、日本では、日本政策投資銀行が民事再生法を適用したフットワークエキスプレス(運送業)に対して20億円の融資枠を設定したのが最初であると言われており、商工中央金庫や民間銀行などの他の金融機関も徐々に参入しつつあるものの、市場規模は米国に比べてはるかに小さい。

DIPファイナンスについては、当面の運転資金を確保することで資産の劣化を防ぐという機能に加え、企業の資産価値を増加させるような投資プロジェクト(投資費用を引いても正のキャッシュフローが見込まれるような投資プロジェクト)の実現を容易にするという側面もある。米国のDIPファイナンスでは、(倒産以前の債権に比して)優先弁済権が与えられており、倒産後に融資を行う債権者の保護を通して、有望な投資プロジェクトに対するファイナンスが行われやすいような仕組みになっている。これは、仮に企業価値を増加させる様なプロジェクトが存在していても、キャッシュフローが既存の債務の弁済に回ってしまうならば、新規融資者への弁済額が少なくなってしまい、新規の融資が行われなくなってしまうという問題(デット・オーバーハング)があるからである。この意味で、DIPファイナンスに優先弁債権を付与することは重要であるが、その一方で、本来、投資すべきでない案件(リスクが高すぎて企業価値を低下させる恐れのあるプロジェクト)をも実行させてしまう恐れがある。例えば、成功の見込みが非常に低くても成功すれば大きなキャッシュフローが得られるプロジェクトがあるとしよう。この場合、企業の経営者(株主)とDIPファイナンスを行う新規債権者にとっては、プロジェクトが成功すれば利益が得られるうえ、失敗しても、既存の債権者が主にその損失を被るだけで、彼ら自身は失うものは小さい。言い換えれば、経営者と新規債権者が結託する形で、望ましくない投資プロジェクトが実行されてしまう恐れがある。また、このことは、仮に倒産しても経営者がペナルティを受けにくいと言うことで、経営者の事前(倒産以前)の規律付けの観点からも望ましくない(モラルハザードの誘発)。つまり、DIPファイナンスの優先弁済権付与は、企業価値の増大をもたらす可能性がある一方、単に、既存の債権者から新規の債権者・経営者へ所得移転をもたらすだけに終わるかもしれないのである。

このように、DIPファイナンスには、メリット・デメリットの双方が存在するが、既述のように、わが国ではまだ十分普及していない。これは、そもそもわが国の会社更生法では、倒産後の企業が借り入れを行うことが原則禁止されているということに加えて、新しく制定された民事再生法でも、DIPファイナンスは、「共益債権」として位置づけられ、倒産以前の債権よりも優先的な弁済順位が与えられているものの、租税債権や労働債権と比べると弁済順位が劣後しているからであると言われている。また、銀行の不良債権の定義上は、「破たん先向け債権」として分類されたため、不良債権残高が膨らむことも、民間銀行の行動を慎重にしていたと考えられる。政府は、現在、DIPファイナンスを非分類債権にするとともに、弁済順位を高める形での民事再生法や会社更生法の改正を検討している。

参考文献
田作朋雄ほか『民事再生ビジネスとM&A』(中央経済社2001)。
寺澤達也ほか『会社更生企業とその後』(金融財政事情研究会2001)。

 
Copyright©, 2003 藤原賢哉
 
この「ビジネス・キーワード」は2003年2月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。