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ユニバーサルサービス
正司健一

先般、官公庁をはじめとして、ともすれば安易に使われている外来語の日本語への言い換えを進めようと、国立 国語研究所に設置された委員会から、言い換えの具体例をまとめた中間報告が公表された。カタカナ言葉の氾濫は目にあまると耳にすることは少なくない。明治維新の頃、各種のテクニカル・タームを日本語化した努力を見習うべきだとの議論も以前からあった。ただ、今回公表された案のなかで、「ユニバーサルサービス→均一料金サービス、均一料金事業」とあるのは、どうにも違和感がある。逆に、ユニバーサルサービス=均一料金サービスであることがマスコミ等の用語法であるなら、われわれ研究者は「ユニバーサルサービス」という言葉を議論の場で使うことをやめた方がよい。

そもそもユニバーサルサービスとは、ネットワーク産業型公益事業における規制体系・政策の議論のなかで生まれた概念である。このような分野では、伝統的に公的独占(多くの場合国が直接といった形で)の形でサービス供給が行われてきた。それが既存供給体制の非効率性が大きな社会問題となり、各国でその効率化をめざした各種の政策(多くの場合、何らかの形での競争圧力の導入を伴う)が検討され、実施に移されている。このなかで、それまで当該事業体が果たしてきたとされる、全国ないしある一定地域内で、あまねくサービスを供給するという機能をいかに担保するかが一つの論点となり、このような、いわば政府として確保すべき最低限のサービスのことをユニバーサルサービスと呼び、その内容及び水準を明確にすることが政策検討の重要な課題となっている。

そもそも既存事業体に効率化を求めるということは、それまで維持されてきた不採算サービスの供給をとりやめてもよいかの議論につながる。それが社会的に最低限必要と政府によって判断されたサービスであれば、そのサービス確保のために必要となる費用を外部補助 and/or 内部補助でカバーせざるをえない。したがってこの言葉は、交通サービスや社会保障などの分野で使われている、ナショナル(ないしリージョナル)ミニマムと同様な意味を持った言葉といってよいだろう。

ややこしいのは、その内容と、水準、提供方法について万人が了解する不変のものがあるわけではなく、そのうえ時々の社会経済的・技術的要件によって変化することが十分に考えられる。たとえば、電気通信事業で、通常の加入電話レベルのサービスがそうなのか、高速のインターネット接続を可能にするような回線速度までそうなのかといった問題である。広辞苑をひけば「ユニバーサル(universal)」には(1)宇宙的、世界的、(2)普遍的、全般的、一般的といった意味が載っている。よってそのままではユニバーサルサービスはたんに「あまねく普遍的なサービス (事業)」ということになる。

この定義を明快に示したものとして、郵便サービスに関して1998年2月に施行されたEU指令における定義がある。同指令は、ユニバーサルサービスを、「すべての地域」における「すべての利用者」に対し、「利用しやすい料金」で「一定の品質」を持った恒常的郵便サービスの提供を行うことであるとしている。このような定義はほかの事業分野でも当てはまるものであるが、そこには均一料金という限定はどこにもない。すべての利用者に利用しやすい料金が均一料金である必要はない、実際、同指令の対象とされている郵便サービスには10kg以下の小包が含まれているが、わが国でもそうであるように、地帯別料金制を採用している国がほとんどである。

もっとも、そのようなユニバーサルサービスを供給する義務(Universal Service Obligation ないし Public Service Obligation)を事業体に求める際に、料金の均一性が指示されることもある。ただ、均一料金といってしまうと葉書や都市バスのように一国ないしある一定地域内で全サービス利用者に対して、同額の料金を課すことを意味するのに対して、そこまでの厳格な均一性を必ずしも意味していないことも少なくない。いずれにせよ、ユニバーサルサービスを均一料金サービスないし均一料金事業と置き換えることは好ましくないことだけは確実である。ただ、代わりの言葉をといわれると筆者にはいいアイデアがないのだが。

 
Copyright©, 2003 正司健一
 
この「ビジネス・キーワード」は2003年1月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。