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企業結合の会計
清水 泰洋

現在、内外で会計基準の改訂作業が進行中である領域のひとつとして企業結合の会計がある。企業結合とは、複数の企業が単一の会計実体に集合することと広く定義される。それゆえこの概念には(新設、吸収を問わず)合併の他に株式を取得して子会社とすることも含まれる。そのためわが国の商法に規定される合併よりも広い概念を指している点に留意する必要がある。

この企業結合には大きく分類すると2つの会計処理方法が存在している。第1はパーチェス法と呼ばれるもので、この方法によれば企業結合は通常の資産の取得、負債の継承と同様の処理に従って処理される。すなわち取得・継承された資産・負債は公正価値(時価)で評価される。企業結合は一般に利得の発生しない交換取引であるとみなされるため、企業結合の際に支払った対価(これは現金あるいは株式の場合が多い)の公正価値が個々の資産・負債の公正価値の純合計額を上回る場合、その差額は、買収企業が被買収企業の無形資産(のれんがその代表である)に対して支払いを行ったその対価であるとみなされる。

第2の方法は持分プーリング法と呼ばれる処理法であり、企業結合は資産・負債の取得ではなく既存株主の合同であるという理解の上に行われる処理法である。この方法によれば資産、負債は消滅企業の簿価がそのまま引き継がれ、存続企業の発行する株式によって増加する資本は、ほとんどの場合受け入れた純資産の簿価に合致する。

これら2つの異なる会計処理は、企業結合後の貸借対照表および損益計算書にきわめて大きな相違をもたらす。ある企業結合がパーチェス法と持分プーリング法の両者で処理可能である場合を仮定してみよう。パーチェス法の下では受け入れた資産は公正価値で評価されるため、持分プーリング法で処理された場合よりも一般に当該資産の貸借対照表計上額は大きくなる。それゆえ企業結合後の減価償却費は、それがパーチェス法によって行われた場合の方が大きくなり、すなわち企業結合後の利益は持分プーリング法による場合の方が大きくなる傾向がある。同様に資本利益率は、大きな貸借対照表計上額、小さな利益
という両者を反映し、パーチェス法による場合の方が小さくなる。その他にも利益剰余金の継承可能性等、年度開始後企業結合までの利益の処理等さまざまな面においても持分プーリング法による方が有利な会計数値をもたらすと考えられる。

国際的な会計基準の動向は、持分プーリング法を廃止してパーチェス法に一本化する方向にある。1998年12月、国際会計基準委員会(当時、現在は国際会計基準審議会)と米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド各国の会計基準設定団体が、パーチェス法のみを認められる処理方法とするという方針を示したポジション・ペーパーを公表し、各国の基準もこれに沿った形で改訂が行われてきている。 米国では約5年にわたる議論の末、このアプローチに沿った財務会計基準書第141・142号が昨年の7月に成立しているし、 国際会計基準審議会も同様の結論に向かって急速に議論が進められている(今年の前半に公開草案が公表される予定)。日本の財務会計基準機構は国際会計基準審議会の提案するパーチェス法への一本化に対して反対の意見を示したが、これが全面的に受け入れられる可能性は低いと思われる。

これに対してわが国の実務は法律的な形式によって一般的に用いられる処理が異なっている。まず、子会社取得は、連結会計の範疇で取り扱われ、パーチェス法が、近年改訂が行われた連結原則に準拠して処理されることになっている。他方、合併の場合、持分プーリング法に準じた処理が行われる場合が多い。これに対する主な理由としてあげられるのが法人税法の規定であり、また、対等合併が多いというわが国の合併の事情と処理法の整合性である。よく「結婚」というアナロジーで説明される持分プーリング法の下では、存続会社は決定されなければならないが、明確に買収企業が特定されるわけではない。これに対してパーチェス法は文字通り「買収」であり、買収企業は明確に特定され、これは対等合併と大きく異なる視点に立脚している。それゆえパーチェス法への一本化の強制は、対等合併に対する大きな制約要因となりうる。他方、合併と子会社取得で異なる会計処理が適用されるという実態は国際的な基準からかけ離れており、両者の間での処理の統一という問題は、わが国の企業結合会計基準設定における大きな論点のひとつとなっている。

国際会計基準の改訂が行われると、現在わが国ですすめられている基準設定にも大きな影響を与え、実質上対等合併が不可能になる可能性さえある。それにもかかわらず、この領域への注目はそれほど高いとはいえないのが現状である。企業結合会計はしばしば国の競争力ともリンクされて議論されてきており、米国では連邦議会で基準設定を送らせるための法案提出まで行われた、社会にも注目度の高い領域である。内外の動向に対して、より大きな注意が払われるべきであろう。

 
Copyright©, 2003清水 泰洋
 
この「ビジネス・キーワード」は2002年2月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。