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総要素生産性(Total Factor Productivity)
得津 一郎

企業の競争力を高めるために、生産性を上昇させなければならないという議論がしばしば行われる。多くの場合は、人員削減による労働コストの減少が、製品価格を引き下げ、他の企業との価格競争において優位性を持つという意味を持っている。したがって、生産性という場合、労働者1人あたりの生産量である労働生産性が用いられることが多い。

しかしながら、製品の生産に用いられているものは労働だけではない。製品の原材料、あるいはそれを加工するための設備などが用いられている。これらを生産要素と呼ぶ。企業はこれらの生産要素を有機的に組み合わせることによって製品を生産しているのである。たとえば、次のような場合を考えてみよう。

ある自動車会社Tでは15台の自動車を生産するために、5人の労働者、3台の機械、10トンの鉄板を生産要素として用いている。一方別の自動車会社Hでは、同じく自動車を10台生産するのに、必要な鉄板は同じく10トンであるが、労働者の数は3人とTよりも少なく、その代わりに用いる機械の台数は5台と多い。このとき、T社の労働生産性は3台/人、H社の労働生産性は5台/人となり、H社の方が高い労働生産性を持つことになる。両者で賃金が同じであれば、当然H社の方が労働コストは低く、より安い自動車価格を設定することが出来るので市場競争力が高くなる。 

ここで、機械を1台生産するために、機械の製造企業では10人の労働者を必要とするとしよう。この労働者まで含めると、自動車15台を生産するために結局T社は35人、H社は53人を必要としたことになり、必要なH社の方が労働生産性が高いとは言えないのである。コストの観点からみると、機械の価格にはそこで用いられた労働コストが反映しているため、単に自社の雇用者だけを対象とする労働生産性だけで、生産性の上昇を論じることは、労働以外の生産要素のコストを無視したことになる。誤った結論を導く恐れがある。

このことを配慮して、近年生産性というばあい、すべての生産要素を考慮した総要素生産性を用いることが多い。先にあげた自動車会社の例で、この総要素生産性について説明することにしよう。ひとまず、両者で原材料の鉄板の使用量は同じであるから、労働と資本設備だけで考えることにする。この場合、生産性はいわゆる付加価値生産性に相当する。ところでT社は労働を5、資本設備を3もちいて15台の自動車を、H社は労働を3、資本設備を5用いて同じく自動車を15台生産している。つまり、生産要素を適当に組み合わせることによって自動車を生産することが出来る。この技術的関係を数学的に表したものを生産関数と呼ぶ。生産量(この場合は付加価値)をY、労働をL、資本設備をKと表したとき、生産関数はしばしば、

Y=Af(K,L)

と表される。労働生産性は、Y/L、資本生産性はY/Kであるのに対し、総要素生産性は、労働L、資本Kを両方考慮して、

A=Y/f(K,L)

と表される。すなわちK,Lの組み合わせをあたかも1つの生産要素のように見なすのである。

総要素生産性は、個別企業の生産性の分析において用いられることはまだ一般的ではない。しかし、国際競争力の観点から生産性の国際比較を行う際には、 TFP用いることは学会の常識となっているといって過言ではない。

参考文献

中島隆俊『日本経済の生産性分析』日本経済新聞社、2001年。
得津一郎『生産構造の計量分析』創文社、1994年。
黒田昌裕『一般均衡の数量分析』岩波書店、1989年。

 
Copyright©, 2003得津一郎
 
この「ビジネス・キーワード」は2001年9月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。