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全面的時価評価論
桜井 久勝

企業が保有する有価証券などの金融商品を、どのような基準で評価して財務諸表に掲載するかについては、「保有目的別評価論」と「全面的時価評価論」という2つの代表的な考え方がある。日本で2001年3月決算期から初めて適用されている『金融商品に係る会計基準』は保有目的別評価論に立脚している。しかし国際的に見た場合、 全面的時価評価論への移行を提唱する強力な動きがある。

証券取引所に上場されている株式や債券などを企業が資産として保有している場合、それを取得原価で評価するか時価で評価するかは、古くから議論されてきた問題である。日本では商法が1938年に初めて、有価証券は時価を超えて評価してはならない旨を規定した。しかし1962年の商法改正により、取得原価による評価が原則とされ、低価法(時価と取得原価のどちらか低い方での評価)の採用も許容するとの取扱いが、最近に至るまで続いてきた。このため企業が保有する有価証券の市場価格が変動しても、その事実はきわめて不十分な形でしか財務諸表に反映されてこなかった。

この状況に大変革をもたらしたのが、2001年3月決算期から適用されている『金融商品に係る会計基準』である。この会計基準は、企業が保有する有価証券を、その保有目的に従って4つのグループに分類し、それぞれのグループ別に次のような取扱いを規定している。

(1)時価変動からの利益獲得を目的に保有する市場性のある有価証券(売買目的の有価証券という)は、決算日に時価で評価して貸借対照表に掲載し、帳簿価額との差額を損益計算書に計上して、当期純利益の計算に含める。
(2)満期まで所有する意図で保有する社債等の債券(満期保有目的の債券という)は、時価評価せずに、償却原価法を適用する。
(3)子会社と関連会社の株式は取得原価で評価する。
(4)上記以外の有価証券(その他有価証券という)で市場性があるもの(上場会社どうしの持ち合い株式はこれに該当する)は、決算日に時価で評価して貸借対照表に掲載し、帳簿価額との差額は貸借対照表の資本の部に計上する。ただし評価差損のみ損益計算書に計上する方法を採用してもよい。

この会計基準は、有価証券の保有目的別に異なった評価基準の適用を規定するものであることから、保有目的別評価論に立脚しているといわれる。この規定内容は、現行のアメリカの会計基準や国際会計基準とも、大筋で合致している。

この新しいルールのゆえに、実務界では次の2つの動きが生じている。第1は、評価損益の利益算入を嫌って、従来は流動資産としてきた有価証券を、その他有価証券として固定資産に振り替える動きである。第2に、固定資産に振り替えても評価差額が自己資本を変動させるため、持ち合いの解消を進める動きも生じている。たかが会計基準の変更であるが、そのインパクトは著しく大きい。

しかし金融商品の会計については、次の段階を模索する動きが生じて、今また更に大きな変革の波が押し寄せようとしている。世界主要国の会計基準設定主体によって構成される共同作業部会が、2000年12月に全面的時価評価論を提唱したのである。それによると、事業用資産と考えられる子会社株式・関連会社株式を除いて、すべての金融商品を決算日に時価で評価して、帳簿価額との差額を損益計算書に計上して利益計算に含めることが提案されている。このルールが適用されると、株式の相互持ち合いの解消がさらに拡大するであろう。

株式の相互持ち合いを通じて企業間のネットワークを形成し、継続的で安定的な取引関係によって強みを発揮してきた日本企業へのインパクトは著しく大きい。有価証券の会計における保有目的別評価論vs全面的時価評価論の論争は、ネットワーク主義vs市場至上主義の論争という側面をも併せもっている。

 
Copyright©, 2003桜井久勝
 
この「ビジネス・キーワード」は2001年7月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。