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モジュール化
原 拓志

現代の製品開発・生産のマネジメントにおいて、理解しておくべき概念の1つが「モジュール化」である。「モジュール化」とは、全体システムを、いくつかの下位システム(モジュール)にわけ、モジュール間のインターフェイスを標準化することによって、システム全体の構造を変革することなく、モジュールの取替や組換えによって、システムの機能を維持ないし変更できるようにする方法である。システムがハードウェアでもソフトウェアでも問わないし、比喩的に社会システムに適用することも可能だ。大量生産方式を特徴づける部品の互換化とも共通点があるが、互換部品が通常は同じ機能のものを指すのに対し、モジュール化の場合は、異なる機能のものも組換え可能にし、全体システムの機能を変革することも狙いにするところが相違する。

「モジュール化」のメリットの1つは、全体システムの変革に際して、変革を局所化することにより変革に伴う効率のロスを小さくできるところにある。これは、効率と変革との間のトレードオフ問題に重要な意味を持つ。伝統的にシステム効率を最大化するために採用されてきた機械原理によれば、要求される機能を実現するのに必要な構造以外はできるだけ排除されるべきだとされる。というのは、冗長な構造は、不生産的なコストをもたらし不具合の原因となる可能性もあるからである。ところが、実際のシステム効率は環境との相互作用で決まる。環境が変化すればそれに合わせてシステム変革が必要となる。逆に、システム変革を通じて好都合な環境を形成しようとする場合もある。いずれにせよ、システムを変革しようとすると、厳密な機械原理に基づいた設計では、システム全体の取替ないし改造が必要となり大きなコストがかかる。しかし、システムを変革しないと環境との間に齟齬が生じ、結局、不効率になっていく。したがって、変革前後の長期的に見た効率上の差が、変革に伴う一時的な効率のロスを相殺して余りあることが変革の合理性といえる。しかし、これを事前に計量することは難しく、変革に慎重なモーメントを助長しやすい。これに対し「モジュール化」は、局所的なシステム変革を可能にし、変革の負担を軽減する。つまり、システムのフレキシビリティを増すメリットがあるのだ。

さらに「モジュール化」は、全体システムから時間的および空間的に切り離しての独立した設計を可能にするので、分業やアウトソーシングを容易にするというメリットがある。これによって、システム設計の時間を短縮することができる。自社の経営資源を超えた設計も可能となる。さらには、インターフェイスを公開することで、独立の開発者によるモジュールまで自己のシステムにとりいれることも可能になる。あるいは、顧客にモジュールの設計や組換えを任せることも可能になる。顧客にとっては、セミ・テーラーメードのシステムを容易に入手できるというわけである。このように、設計機能の社会的な分散を可能にするというのが「モジュール化」第2のメリットといえる。

第3のメリットは、一度設計されたモジュールの再利用である。モジュールの機能と相互依存関係が明確に定義されインターフェイスが標準化されていることにより、異なる全体システムの間でも、同じモジュールが利用できる。これによりシステム設計や変革のコストをさらに節約できる。モジュールの再利用の機会が多ければ多いほど、この効果は大きくなる。このように、「モジュール化」には、範囲の経済性に基づくメリットもある。

しかしながら、「モジュール化」には限界もある。まず、「モジュール化」は機械原理を緩めた方法である。というのは、標準化されたインターフェイスによって組換えを可能にするために、システム全体の最適化を放棄し、冗長な設計を許容する方法だからである。他方で、機械原理から自由になった方法ではないため、インターフェイスの標準を無視した思い切った変革を許さない。したがって、モジュール化によって構築された全体システムは、つねに妥協的なシステムだといえる。その潜在コストは変革コストの低減によってカバーされるが、あまりこまめに環境変化に対応すると、小さなロスが積み重なって結局大きなロスになる可能性がある。変革の手軽さが必要以上の変革を誘い、結局不効率になるかもしれないのである。

次に、いくらインターフェイスを標準に合わせたつもりでいても、複雑で巨大なシステムに組み立てられていったとき、小さな齟齬が増幅されて、システム全体が機能しなくなる可能性がある。モジュール間の相互作用の中から、予測せざる不具合が生じるかもしれない。また、モジュールのブラックボックス化や、不特定多数によるモジュールの設計が進むと、不具合の原因の特定や解消が困難になる危険性もある。

最後に、モジュールの数や多様性が増すにつれ、最適なモジュールとその最適な組合せ方をいかに迅速に見つけ出すかという作業自体の負荷も大きくなる。代替的なモジュール間に品質や信頼性、コストの面でのバラツキが存在すれば、こうした作業はさらに複雑になり高度な判断を必要とするようになるであろう。これらは、範囲の経済性のメリットを削ぐ結果になるかもしれない。

結局、「モジュール化」によってもシステム全体の調整という仕事がなくなるわけではない。しかも、モジュールの数や多様性が増すにつれて、調整の仕事量は飛躍的に増大する。柔軟なシステムを求めればモジュールを細かく多様にして頻繁に替える方がよい。しかし、それは調整の仕事を増やし効率を下げる。つまり、「モジュール化」においても効率を優先するかフレキシビリティを優先するか、依然としてジレンマは存在しているのである。これらの長短をよく考えて利用することで、「モジュール化」は、変革と効率の両立のための強力な武器となりうる。

 
Copyright©, 2003原拓志
 
この「ビジネス・キーワード」は2001年3月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。