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地方創生

島田智明

 都市圏への人口集中を避けるべく、地方を活性化しようとする政策は、1970年代まで遡る。1972年の田中角栄首相の「日本列島改造論」に始まり、1980年の大平正芳首相の「田園都市国家構想」、1988年から1989年にかけて実施された竹下登首相の「ふるさと創生事業」、そして、2014年に始動した安倍首相の「地方創生」。それぞれ異なる特色があるが、今回の「地方創生」は、2008年に始まった人口減少社会到来後、初めての地方活性化政策であり、地方自治体および政府の財政ひっ迫という危機感が漂う中での取り組みという点で、景気が良いときの政策とは大いに状況が異なる。

 経営学的観点から考えると、「地方創生」の特徴は、各地方自治体に対して、2015年度中にその地域の人口ビジョンを踏まえて「総合戦略」(2015年度から2019年度までの5ヶ年計画)を策定させ、その中で定性的な目標(例えば、転入者数について、毎年度増加を目指す)ではなく、定量的な目標(例えば、転入者数を5年間で○○人)を明示させ、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを確立することを促していることである。定量的な目標をKPI(Key Performance Indicator; 重要実績評価指標)と呼び、客観的で、かつ、具体的な数値目標を設定することにより、PDCAサイクルが回り始める仕組みである。また、KPIは、基本的にOutput(行政活動そのものの結果)ではなく、Outcome(行政活動の結果として住民にもたらされた便益)であることとしている。例えば、防犯カメラの数を50台から100台に増やすというのはOutputであり、犯罪発生率を2%から1%に減らすというのはOutcomeである。

 PDCAサイクルを具体的にどのように回すかであるが、KPIを設定した上で施策を計画し(Plan)、計画に基づいて実行し(Do)、計画通りにKPIに達したかどうかを確認し(Check)、計画通りに進まなかった部分の改善策を実行する(Act)。KPIに達したのであれば更に上位の数値目標をKPIとして計画し、達しなかったのであれば現状維持、あるいは、現実的な数値目標をKPIとして次なる計画を立てる(Plan)。これを繰り返すことによって、PDCAサイクルが回り始めるのである。民間企業では、当然の取り組みかもしれないが、行政機関の場合、例えば、施設をつくる部分に全力を注ぎ、どう活用するかは住民あるいは企業にお任せというように、PDCAサイクルのPD部分だけが強調されることが多く、Cの部分が徹底していないために、Aで改善されないということが多々あった。

 地方自治体がPDCAサイクルを円滑に回せるように、政府は、「地方創生」の支援策として、財政支援、情報支援、人材支援の三つを展開している。財政支援として、地方自治体の戦略的施策に対する交付金、情報支援として、RESAS(Regional Economy and Society Analyzing System; 地域経済分析システム)と呼ばれるビッグデータの提供、そして、人材支援として、国家公務員、大学研究者、民間人材を市町村長の補佐役として派遣している。

 また、各地方自治体が実施する「総合戦略」の策定において、「産官学金労言」で取り組むことを推奨している。「産官学」に関しては説明するまでもないが、「金」は金融機関、「労」は労働組合、「言」は言論界つまりメディアを指している。「地方創生」に当たって、住民、民間企業、行政機関、教育機関だけでなく、地方銀行、地域に根差した労働者、地方紙や地方局等が参画して、地方活性化に取り組んでいこうという体制である。さらに、「総合戦略」の策定に当たって、国の総合戦略に盛り込まれた「政策5原則」、すなわち、自立性(自立を支援する施策)、将来性(夢を持つ前向きな施策)、地域性(地域の実情等を踏まえた施策)、直接性(直接の支援効果のある施策)、結果重視(結果を追求する施策)を考慮することとしている。参考までに、今回の「地方創生」の主たる目標は、(1) 地方における安定した雇用を創出すること、(2) 地方への新しいひとの流れをつくること、(3) 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえること、(4) 時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携することとなっている。

 最後に、筆者の個人的な意見として、各地方自治体が、上述の目標を踏まえた上で、PDCAサイクルが効果的に機能するような「総合戦略」を策定することを願っているし、政府派遣された者として支援していきたいと考える。「総合戦略」の質によって「地方」が本当に「創生」するかどうかが決まる、と言っても過言ではない。

Copyright © 2016, 島田智明