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サステイナブル成長と企業価値

砂川伸幸

サステイナブル成長(持続可能な成長)を経営目標に掲げる企業は多い。現代経営学におけるバリュエーションの分野では、早くからサステイナブル成長モデルが取り上げられてきた。私が大学院生の頃に読んだテキストにサステイナブル成長率という用語があることから、20年以上前から使われていることは確かである。

サステイナブル成長とは、内部で持続可能な成長をいう。地球レベルでいうと、地球上の経営資源を利用して永続的に実現できる成長のことである。企業においては、内部再投資によって達成できる永続的な成長となる。ここでは、簡単な数値例を用いて、サステイナブル成長モデルと企業価値の関係を紹介しよう。

(表)は、典型的なサステイナブル成長モデルである。投下資本利益率(ROIC)は10%、配当性向8割、内部留保2割、内部留保は再投資される。再投資利益率はROICに等しく10%である。このとき企業は毎期2%の率でサステイナブルに成長する。総資本(総資産)、利益、配当、内部留保(再投資)のすべてがサステイナブル成長率2%で増加していく。サステイナブル成長率は、資本利益率と再投資率(内部留保率)をかけた値である。
キャッシュフローや利益の流列が無限個あるゴーイングコンサーンの企業価値を評価することは、実務における課題の一つであった。無限等比級数の和の公式が、無限を有限に変える術を教えてくれる。その術を用いて、サステイナブルに成長する利益の現在価値を求めることができる。ただし、割引率(資本コスト)が必要である。計算プロセスは省略するが、資本コストが6%のとき、サステイナブル成長する企業の価値は2,000となる。この場合、時価(評価額)が投下資本(簿価)を上回っている。株式評価の用語を用いるとPBRが1を上回り、価値が付加されたことになる。 資本コストが10%のとき、企業の評価額は1,000となる。時価と簿価は等しい。

問題は、資本コストが10%を上回っている場合である。例えば、資本コストが14%のとき、サステイナブル成長する企業の評価額は、667となる。成長はするが、時価評価は簿価を大きく下回ることになる。これは価値の毀損である。財務会計では減損が生じることになる。成長と価値創造は一致しないのである。
価値創造は、成長率ではなく、資本コストと資本利益率の関係によって決まる。成長が価値創造のドライバーになるためには、資本利益率が資本コストを上回るという条件が必要になる。上の例では、資本コスト6%のケースが相当する。資本利益率は10%であるから、資本コストを上回っている。
有名なMBA企業分析のテキストは、次のように述べている。多くの財務指標は理論的なベンチマークをもたないが、資本利益率には資本コストという明確な基準がある。資本コストを上回る資本利益率をあげることで、企業は経済的価値を付加することができる。成長が目的だと思い込んでいると、企業価値を毀損することになりかねない。

M&Aの専門誌によると、日本企業のM&A件数や金額は2006年をピークに低下傾向にある。一方、日本企業が海外企業を買収するIn-Outの件数は増加している。海外買収案件のターゲットは成長ポテンシャルが高いアジアである。サステイナブル成長モデルの含意を海外投資の注意点として述べておこう。
第一に、再投資なくして成長はない。サステイナブル成長は、毎期の投資(再投資)によって実現できる。海外進出するだけでは高い成長率を享受することはできない。継続的な投資が必要になる。第二に、成長が価値を高めるとは限らない。成長による価値向上という果実を得るためには、資本コストと資本利益率の関係を正しく見極める必要がある。新興国の成長率は高いが、成長期にある国は金利が高く資本コストも高くなる。一方、成熟国である日本は、金利が低く資本コストも低い。成長ばかりに目が奪われると、新興国への投資が企業価値を毀損するという結果をもたらしかねない。

   (表)サステイナブル成長モデル
  今期 来期 再来期 以降
投下資本(期首) 1,000 1,020 1040.4 2%成長
利益(期末) 100 102 1040.4 2%成長
配当(期末) 80 81.6 83.232 2%成長
内部留保 20 20.4 20.808 2%成長
期末資本 1,020 1,040,4 1,061.208 2%成長

Copyright © 2013, 砂川伸幸