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気づく

久本久男

サイパネティックス (cybernetics)を提唱したウィナー(Wiener, N. 1894─1964) は、「発明」(1994、みすず書房) において、発明の過程につぎの4つの重要な契機があることを指摘しています (pp28─30)。

  1. 理論または実践の中で何か新しいアイディアが生じるためには、まず誰か一人または数人の人が自分の頭の中でそれを思いつくことが必要であり、しかもそれが人々にわかる記録の形で保存され、それが知的風土の中に変化をひき起こさねばならない。
  2. 適切な材料または技術の存在である。それらは、... 、そのアイディアをうまく実現させるためには必要なものである。
  3. 新しい方法が学者から職人へ伝わるためには、この二つの非常に違う型の人間が、その時代の社会制度の枠内で互いにコミュニケートする手段がなければならない。
  4. 発明が広く人々の手にとどくようになるためには、それを促進する方法がなければならない。... 。もしある技術的改革に不可避なリスクが、その改革を最初に実行した人々にあまりに集中するものであって、それら企業家のリスクを相殺する手段が何もないなら、誰もそんなリスクをあえて冒しはしないだろう。

ウィナーの指摘を「個人が物事に気づく」という観点から考えるとつぎの3つの点が重要になります。

  1. 「気づく」という行為は新しいことが生まれることに関連しており、それは「知る(知識)」です。したがって、事前の知識── (気づく) ── > 事後の知識、もしくは、古い知識── (気づく) ── > 新しい知識という行為になります。
  2. 「気づく」という行為が生じる動因もしくはトリガーの第1は、個人への外部からの刺激です。単数、複数の他人とのコミュニケーション、 (コミュニケーションの1種ですが) 言語によって表現された書物、自然や社会現象、他人の行為を見るなどが動因となるでしょう。このようなコミュニケーションや「見る」行為に影響を与える要因がいろいろあることは容易に想像ができるでしょう。
  3. 「気づく」という行為が生じる動因の第2は、個人の内部での刺激です。外部からの動因とこれまでの知識の組み合わせ、すなわち、学習や「考える」を支える要因を検討する必要があります。推論プロセスだけではなく、問題へのコミットメントの程度、目的などが、個人の「考える」範囲、エネルギーや効率性に影響を与えるでしょう。

このようなことから、「気づく」を客観的に取り扱うモデルをつくろうとすれば、「知る(知識)」をオペレーショナルに分析できるモデルが必要になります。そのようなモデルの1つに認識論理 (様相論理の1種) があり、認識論理には「知る」「信じる」を分析できるいろいろなモデルがあります。この中に「気づく」を導入すれば、「気づく」の分析モデルが可能となります。「気づく」を導入するとき、「気づいている」状態と「気づいていない」状態の相違に重点を置くようなモデルでは、陽表的知識、陰伏的知識などがキーコンセプトになるでしょう。「気づく」の動的側面、たとえば、「知らない」── (気づく) ── >「知る」 (もしくは「知るかもしれない」) に重点を置くようなモデルでは、動的であることがキーコンセプトになるでしょう。いずれにしても、「気づく」のような問題を考察対象にしようとする人々にとって認識論理はとても重要な援軍になるでしょう。

Copyright © 2013, 久本久男