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「売上高」はどうなるのか

清水泰洋

 

数年来作業が続けられてきた、収益認識に関する国際会計基準(IFRS)が2013年前半に成立する見込みである。従来日本基準と国際会計基準の間で大きな相違が存在し、国際会計基準を適用する場合に実務上の対応の必要性が指摘される領域の一つとして収益の認識と測定があげられてきた。収益の認識と測定の問題とは、いつ、いくらで収益が計上されるべきかという問題であり、小売業や卸売業の場合、主要な収益は売上高として開示される。売上高は企業にとって重要な業績のベンチマークであり、強い関心が寄せられる数字である。

日本の売上に関する一般的な会計基準は企業会計原則に見られる「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という一文のみであり、いつ「実現」が行われたのかについての具体的な指針は存在していなかった。そのため、売り手が収益を認識するのは売り手が商品・製品の出荷を行った時点か、あるいは買い手が当該商品・製品を受け取り、検収を終えた時点か、何も言及していないのである。その中で、日本基準では、伝統的に出荷基準を採用していたと言われる。

他方、現行の国際会計基準(IAS第 18号)では、物品の販売による収益が実現するために、「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転した」ことを要求している。所有によるリスク・便益の移転が見られない取引は、販売収益とみなされないこととなる。基準中では、具体的にリスクが売り手に残っている状況の事例を挙げている。たとえば、物品の設置が販売の条件であり、それが契約中で重要な過程であるならば、設置が完了するまで販売収益は認められない。さらに、買い手に返品の権利が留保される場合は、返品の確率が高ければ販売がなされたとは判断されないのである。結果として、多くの企業は買い手の検収をもって販売収益の実現を認識しているようである。国際会計基準の任意適用第1号となった日本電波工業の有価証券報告書でも、日本基準での売上高の計上基準(出荷基準)と国際会計基準での売上高の計上基準(着荷基準等)との間の相違が存在し、結果として売上高の相異をもたらしている。

売上高に関するもう一つの問題は、金額である。上で引用した企業会計原則の文言では、売上高の金額をどのように確定すべきかについては一切触れられていない。しかし、近年ではポイントやマイレージ等、カスタマー・ロイヤルティ・プログラムが多くの企業によって実施され、その金額は無視できないようになっている。買い手へのポイント等の供与は、売上割戻と同様売上高の控除とするのか、あるいは販売費と考えるのかにより、売上総利益率に変化をもたらす。国際会計基準(IFRIC第13号)では、ポイント等による割引額の売上高からの控除を求めており、これは現在多くの日本企業が採用しているものとは異なる方法である。

このように、日本企業が国際会計基準を採用した場合、その計上のタイミングや金額に相異が出ることが予想されるが、国際会計基準はさらに変更が予定されている。2008年の討議資料の公表から2次にわたる公開草案を経て、2013年に顧客からの収益認識に関する会計基準が成立する見込みである。ここでは、取引を、5つのステップを経ることによって収益の認識と測定を行うこととなっている。基本的な考え方は、顧客からの収益を、契約によって発生する履行義務の履行によって認識するというものである。一つの契約が、複数の履行義務の束で構成されていると考えられる場合、取引価格はそれぞれの履行義務に対して配分が行われるのである。

このような新しいアプローチを要求し、さらには収益自体の定義からフロー概念が削除されるなど、重要な変更が見られる新基準であるが、通常の物品の販売に関して要求される処理は大きく変わることがない。新基準においてもリスクと経済的価値の移転は販売の有無を判断するための重要な規準である。このことは会計基準の目的が、過去に別個に公表されてきた収益に関わる基準を単一の基準に集約すること、過去の基準では曖昧であった複合的な取引についての指針を明示することにあることにも裏付けられる。

一昨年より、金融庁による国際会計基準の全面的な強制適用に関する判断が相次いで延期されている。仮に強制適用が行われた場合の範囲や時期も見直されることとなろう。結果として、わが国全体として国際会計基準への一般の関心が低くなったことは否めない。その一方で、国際会計基準の任意適用を行う日本企業の数は増加し、また昨年末にはIFRS財団のアジア・オセアニア事務所が東京開設されるなど日本との関わりはむしろ強くなった部分もある。国際会計基準全体の動向としては、今後3年間は基準の改定とともに、概念フレームワークや基準の適用指針・品質改善により焦点を当てる、比較的平穏な期間となることが予定されている。国際会計基準を本格的に検討するためには好ましい時期であり、最近の関心の低下が残念なところである。

Copyright © 2013, 清水泰洋