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官民協働

松尾貴巳

 

国や地方公共団体が提供する行政サービスの提供方法に関して、「官民協働」という用語が使われるようになってきました。ただし、この用語の定義は必ずしも明確ではありません。狭義には、PPP(Public Private Partnership)やPFI(Private Finance Initiative)と呼ばれ、伝統的に行政がインフラストラクチャー資産(社会教育施設、病院、ごみ焼却処理施設など)を行政の財源で整備し提供してきたサービスについて、民間部門が資金調達を行い、設計、維持管理、運営にも民間企業などが関わることを意味すると理解されています。しかし、広義には、民間の経済的資源、ノウハウを活用して行政サービスを効率的かつ効果的に提供しようとする様々な取組み、たとえば、税の窓口業務や図書館サービスなどの行政サービスの複数年度にわたるアウトソーシング、民間からの人材登用など(一部には住民、NPOとの協働)を含む幅広い概念として使われています。

国や地方公共団体が「官民協働」に取り組もうとしてきた背景には、 1990年代半ば以降、公的サービスに対するニーズが多様化する中で公的部門の財政状況が悪化し、行政サービスをより効率的、効果的に提供するうえでは民間部門の経済資源やノウハウを活用する意義が高まってきたからです。イギリスをはじめとするアングロサクソン系諸国では、1980年代以降市場型メカニズムを活用したアウトソーシングや民営化による経済性、効率性の向上を積極的に行ってきました。わが国でも、2000年の「行政改革大綱」やその後の行革推進の指針の中で、特殊法人業務の民間移管、民間人材の登用、アウトソーシングの積極活用に向けた方針等が示されました。その結果、民間資金で公共施設の整備を可能にすることや(PFI法)、公の施設の管理運営を民間事業者が行えるようにすること(指定管理者制度)、官民競争入札制度(市場化テスト)の導入、検討が進められてきました。その結果、指定管理者制度については、全国で70,022施設(平成21年4月1日現在、総務省調べ)において導入されており、うち約3割の20,489施設で民間企業等が指定管理者となっています。ただし、わが国では、市場メカニズムの導入を検討しはじめた時期が1990年代以降であり、その時期はすでにイギリスなどが経済性、効率性偏重の行財政改革の方向性を質重視に変えつつありました。また、わが国の場合、成文法国家であり規制緩和の手続きが複雑であることや、公務員は身分保障されており業務を民間部門に移管しても短期的に人件費を減らすことはできないことなどから、市場メカニズムの導入といっても、サービスの質と経済性、効率性のバランスをとることが重視され、官民競争色は弱いものとなりました。

行政サービスの質的側面を重視する官民協働型の民間活用では、契約管理だけでなく官民協働でサービス水準の維持・向上をはかるためのマネジメントシステムとこれを支える測定、評価技術が必要となります。これは、伝統的に行ってきた明確な業務仕様に基づく短期的な業務委託管理とは異なりますが、多くの行政組織は伝統的に自らサービスの品質管理を行ってこなかったため十分な能力を有していません。民間部門の有する経済的資源やノウハウを活用するためには、提供するサービス水準を継続的にモニタリングし(たとえば窓口業務における受付時間、待ち時間、手続きの正確性、利用者満足度、個人情報管理の信頼性など)、目標値を設定したうえで、実績値を測定しギャップを認識することによって、どのようにすれば目標値を達成できるか(目標値を達成できれば、さらに質を高めるにはどのようにすれば良いか)について、官民が知恵を出し合いサービスの質の向上に取り組んでいく必要があります。たとえば、図書館業務では、民間組織の持っているサービスや顧客管理、蔵書管理のノウハウが導入され、官民で一緒に検討する(協働する)ことで施設固有の状況に合った管理運営方法が作られていきます。サービス水準の客観的な測定と管理に関する情報は、問題を認識し改善、改革のためのアイデアを出すための共通基盤となるものです。わが国では、民間部門の活用において「官民競争」ではなく「官民協働」が志向され、経済性、効率性に偏重せず、サービスの質とのバランスが重視されましたが、残念なことに官民が協働してサービス水準の維持、向上させるマネジメントシステムの整備は十分ではありません。

 
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