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為替リスク

中井正敏

 

為替リスクとは、外国為替相場の変動により、損失を被る可能性(危険性)のことをいう。企業経営にとって、為替相場の変動は、企業本来の活動とはまったく別個の要因により収益に影響を及ぼすものであり、為替相場の変動はない方がよい。

一方、相場の変動がないと困る人もいる。為替の投機家たちである。彼らは、為替相場が変動しないことには儲けるチャンスはない。円高になろうが、円安になろうが、とにかく相場が動けばよい。

では、具体例で見てみよう。ここに、ある商品を外国から仕入れ、日本で販売をしている輸入業者がいるとする。この商品の仕入価格は1個US$1.00、仕入契約をしてから商品が日本に届き販売をするまでに1ヶ月を要し、国内での販売価格は1個¥100を想定していたとする。また、今の為替相場は、US$1.00 =¥90であるとしよう。

ケースA:1個¥90で仕入契約をし、代金は1ヶ月後(商品が販売されたとき)に支払う。
ケースB:1個¥90で仕入契約をし、代金は契約と同時に支払う。
ケースC:1個US$1.00で仕入契約をし、代金は1ヶ月後に支払う。
ケースD:1個US$1.00で仕入契約をし、代金は契約と同時に支払う。

この4つのケースは、仕入契約の通貨(US$か¥か)と代金の支払時期(1ヶ月後の商品販売時か仕入契約時か)のマトリクスで成り立っている。

仕入契約が¥である場合(=ケースAとケースBの場合)は、輸入業者は、為替相場がどのように変動しようが、1個¥90で仕入れたものを、1個¥100で販売し、¥10の利益を得ることができる。すなわち為替リスクは発生しない。しかし、ケースAの場合、輸出業者は為替リスクを持つことになる。すなわち、輸出業者は1ヶ月後に¥90を受取ることになるが、その時、為替相場がUS$1.00=¥100になっていたら、その輸出業者はUS$0.9しか手にいれることができなくなる。

次に、仕入代金を仕入契約時に支払う場合(=ケースBとケースDの場合)は、1ヶ月後の為替相場がどのように変動しようが、US1.00=¥90で仕入代金の支払いは完了するので、輸入業者は、¥100で販売すれば¥10の利益を得ることができるし、また、輸出業者もUS$1.00を手にいれることができるので、輸入業者、輸出業者ともに為替リスクは発生しない。すなわち、仕入契約時に代金決済を行えば、仕入契約の通貨が¥であろうが、US$であろうが、為替リスクは発生しない。

輸入業者にとって、為替リスクが発生するケースは、ケースCである。1ヶ月後、販売代金が入った時の為替相場がUS$1.00=¥100になっていれば、US$1.00の仕入代金を支払うのに¥100が必要になり、¥100で販売していたのでは利益がでないということになる。しかし、一方、円高すなわちUS$1.00=¥80になっていれば、US$1.00の仕入代金を支払うのに¥80しか必要でなくなるので、1個¥100で販売すれば¥20の利益を得ることができる。また、もし1個¥10の利益でよいとするならば、円高還元と称して1個¥90で販売することもできる。この円高還元は、いくら円高になってもケースC以外ではできない。すなわち、為替リスクを持っていないと円高還元はできない。

現実によく起こりうるケースは、このケースCである。商品が日本に到着してから、販売してから代金を払いたいというケースである。同じようなケースにケースAがあるが、円建ての契約は、力関係で輸入業者が強くないとなかなか実現しない。このケースCの場合、為替リスクを放置し何もしない輸入業者と為替リスクを回避しようと先物為替予約等を使って為替リスクをヘッジしようとする輸入業者がいる。また、先物予約を使って為替リスクヘッジしたのでは円高還元ができなくなるので、オプションという手法を使って為替リスクヘッジをしようとする輸入業者もいる。1ヶ月先にUS$1.00=¥90でUS$を買う権利を購入するのである。1ヶ月先に円安(US$1.00=¥100)になっていたら、この権利(オプション)を行使することにより、US$1.00=¥90でドルを購入することができる。逆に円高(US$1.00=¥80)になっていたら、権利(オプション)を行使せずにその時の相場US$1.00=¥80でドルを購入すればよい。実際には権利を購入する費用(オプション料)がかかるので、その分利益は減ることになるが、円安の為替リスクを回避しつつ円高メリットもある程度享受することができる。

さてあなたが輸入業者ならどうするか?もちろん一概にどれが正しいとは言えない。ずっと恒常的に同じ取引を続けているのであれば、円安になるときもあれば円高になるときもあるので、何もしなくても平準化されるということもあるだろうし、為替相場の変動に対して価格にどの程度転嫁できるかによっても状況は異なってこよう。但し、一つ言えることは、もしあなたが、余計な費用(オプション料)は払いたくないとか、円高になった時に儲け損なう(あるいは円高還元がしたい)といった理由で何もしないとするならば、それは、結局は投機家がやろうとしていることと同じことをあなたもしようとしているということである。

 
Copyright © 2010, 中井正敏