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ダイバシティ・マネジメント

鈴木竜太

アテネ五輪で2大会ぶりに本大会出場となった柳本監督率いる全日本の女子バレーボールチームは、それまでの全日本のチームとはその編成のポリシーが大きく異なるという。それまでの全日本チームは、その時代に強かった社会人チーム(たとえば日紡貝塚や日立)のメンバーをベースに、他のチームから数名追加することで構成されていた。バレーボールはコンビプレーやフォーメーションなど、あうんの呼吸が要求される部分やチーム独特のやり方が多く、チームを練り上げる時間が少ない全日本チームとしては、このような単一チームをベースとしたチーム編成が伝統となっていた。そしてそのようなチーム編成の中、大松監督や山田監督など名将のもと、オリンピックをはじめとする主要な世界大会で輝かしい結果を出してきたのである。

一方、柳本監督のチーム編成はこの従来のやり方とはまったく異なっていた。最年長の吉原知子キャプテンと最年少の木村沙織選手との年齢差は17才。出身チームもばらばらであった。サッカーの日本代表を良く知っていると、普通のメンバー構成のように見えるが、バレーボール界ではかなり革命的な選手編成だったのである。アテネオリンピックでの結果は、評価が分かれるところだが、ベテランと若手、特徴のある選手による構成という、これまでの全日本とは異なるチーム編成のポリシーでも、ある程度の成果が出ることが示されたということは可能だろう。アテネ五輪前の全日本女子バレーボールチームの低迷を考えると、多様な特徴を活かしたからこそ、成果が出たということができるかもしれない。

近年、組織の中の人材の多様性をいかにマネジメントするのかというトピックが企業の中で多く取り上げられる。これをダイバシティ・マネジメントと呼ぶ。グローバル化、女性の社会進出、2007年問題や少子化による高齢者の再雇用などの影響によって、高度成長期に見られたような、30代から50代の日本人の男性社員中心に構成される企業から、多様な背景を持つ人の集団へと日本の企業は必然的に変わってきた。これまでの日本企業では、組織やチームのメンバーをひとつの価値観にできる限り染め上げるという方法で、多様性を回避してきた。これも多様性をマネジメントするひとつの方法である。しかしながら、むしろ多様性を活かすようなマネジメントをしていくことがより組織にとって意義のあることであるのは間違いない。近年の、多様性を活かそうという意味でのダイバシティ・マネジメントへの注目はこのような背景がある。しかしながら、ダイバシティ・マネジメントには、様々な側面があり、ひとくくりで議論するのは難しい。ここでは、多様性とはいったい何をもって多様性と呼ぶのか、多様性と成果はどのように説明づけられるのか、という点から少し整理をしてみたい。

多様な人材の組織あるいはチームといったとき、どのようなメンバーを想像するだろうか。性別、専門性、年齢や経験年数、パーソナリティ、あるいは人種や国籍。多様性の含む意味合いはきわめて広い。大きく分けると、ダイバシティは、表層的なダイバシティと深層的なダイバシティの2つに分けることができる。表層的なダイバシティとは、人種や性別、国籍、肩書きなどが含まれる。近年、女性の登用ということで用いられるダイバシティは、この表層的な意味でのダイバシティである。一方、深層的なダイバシティには、パーソナリティや専門性などが含まれる。まだ欧米ほど表層的な多様性がない日本企業においては、深層的なダイバシティの方が現実的には直面することが多いかもしれない。いずれにせよ、ダイバシティ・マネジメントと一口に言っても、そのダイバシティの内容次第では、かなり異なる様相を見せることが分かるだろう。

次に、ダイバシティと成果の関係について考えていこう。ダイバシティはなぜ成果に結びつくのか。これにはいくつかの考え方がある。まず、第1は、情報・意志決定の多様さによるものである。これは多様な人がいるほど、多様な立場の意見や情報が表出し、新しいアイデアが出てきやすいという考え方である。第2の考え方は、アイデンティティによるものである。異なる出自や背景を持っている人が集まった場合、自分の特徴というのは分かりやすい。結果として自分がそのグループで果たす役割の認識が素早く行われるし、自分の特徴を出すことが可能になる。他者との相違を認識し、自分の得手で貢献する意識が芽生える。しかしダイバシティが大きいことは良いことばかりではない。ダイバシティが小さい、つまり似た人たちのグループでは親密性が高く、価値観も近いために凝集性が高まる。また、1つめの考え方においても、情報や意思決定が多様になるということは、調整に時間がかかることを意味する。2つめの考え方においても、ダイバシティが小さく、お互いが似たような特徴をもっている集団の方が、意識してグループ内でのアイデンティティを確保するために、役割分担がより明確になるという研究もある。

最後に、成果そのものが何かということについて触れていこう。ダイバシティ・マネジメントを考える場合、そもそもその組織やグループがどのような成果を求めるのかということによってそのあり方は大きく異なる。たとえば、新規の企画などこれまでにないアイデアを創出するような目的の場合と、より迅速にミスなく実施するという目的では、ダイバシティ・マネジメントのあり方は異なる。前者で言えば、その多様性を活かすことが求められるし、後者であればむしろ意見ややり方をいかにして集約していくかということが求められよう。また、ダイバシティを活かすにしても、メルティングポット型とサラダボール型ではその方向性は異なる。前者は、多様な人材を解け合わせ新しい価値観のグループとして構築するような方向、後者はそれぞれの特徴を活かし、それを束ねるような方向である。

多様性をいかにしてマネジメントするのか。その答えは簡単には出ない。それはダイバシティ・マネジメントといってもそれ自体がかなり多様であるからである。企業としては、このような複雑性・不確実性を回避するために、できる限り均質な人材を採用・育成するというマネジメント手法もなくはない。しかし、少子化や2007年問題による労働力不足を考えると、より積極的にこのダイバシティ・マネジメントに取り組むほうがよさそうである。しかし単純にダイバシティ・マネジメントを人種や国籍の異なるメンバーによる組織運営、あるいは女性の社会進出を受け入れるものとして捉えるのではなく、どのようなダイバシティを、どういう成果や目標のために、どのようなねらいでマネジメントしていくのかということをしっかりと明らかにすることが重要である。

*ダイバシティ・マネジメントについてより深くお知りになりたいかたには、神戸大学大学院出身の谷口真美先生(早稲田大学)の書籍(『ダイバシティ・マネジメント−多様性をいかす組織』白桃書房)をお勧めします。
 
Copyright © 2007, 鈴木竜太