営業プロセス革新

髙嶋克義

近年、SFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)のようなキーワードを伴いながら営業改革への関心が急速に高まっている。そこで議論になっているのは、営業担当者がそれぞれの営業活動のやり方を修正するという程度の変革ではなく、営業活動にプロセス管理、データベース、チーム制を導入することで、組織全体の営業プロセスそのものを大きく変革することである。

この営業プロセス革新の基本は、営業活動や顧客の状況に関する情報の透明性(いわゆる「見える化」)を高めて、それらの情報の共有可能性や分析能力を引き上げようとすることである。言い換えれば、営業活動や顧客状況の情報を適切に管理することで、業務の改善や他者との連携を実現することを目標としている。

ただし、現実の営業活動というのは、あまりにも多様で曖昧なものであるために、その情報の共有や分析は容易なことではない。営業活動が多様であるというのは、顧客や販売状況がきわめて多様で、しかも人間関係が影響したり、対話に基づいて行われたりするものであるために、どうしても営業活動の内容が個々の状況によって異質なものとなることを意味している。また営業活動の状況が曖昧であることから、営業活動の内容を記録して、情報の共有や分析をすることが困難であることが予想される。

こうしたことから、例えばデータベースを導入しても、それがうまく機能しないという事態が発生するのである。ある顧客に対してどのような営業活動を行ったのか、何をどのように提案し、どのような反応であったのかは、正確に記述できるものではなく、また営業活動のスキルやノウハウなどの知識についても、表記できない暗黙知的なものが多く含まれている。そのためにそれらの知識をデータベースの形で蓄積するのは難しく、たとえデータベースがあっても利用しにくいということが起こるのである。

したがって顧客との取引活動に関わるデータを蓄積しようとしても、顧客との取引活動のうちでデータとして文書化されるのは、そのごく一部であり、顧客との信頼関係や人間関係に関わることを読みとることができないということになりやすい。また、そのようなデータベースの助けを借りなくても、実際に顧客に接する担当者が知識として蓄え、他の担当者との相互コミュニケーションで密度の濃い情報を交換するほうが、より深い理解が得られるということにもなる。その場合には自分にとって利用価値の低いデータを他人のために残すという煩わしい作業になる。さらに、営業活動の内容が顧客ごとに違うことが強調されて、ある顧客との取引における成功体験を他の顧客との取引に生かせないということも言われる。

それゆえに従来の営業体制では、個々の営業担当者が営業活動を通じて獲得した暗黙知をインフォーマルなコミュニケーションや経験の共有を通して、他の営業担当者や他部門担当者に伝達してきたのである。またその過程で、営業担当者は営業活動のスキル・ノウハウを自ら実践して習得し、開発部門などの他部門の担当者は社内の人間関係をベースに顧客の需要情報を得ることができたのである。

しかし営業活動で獲得した知識を暗黙知のままインフォーマルな関係や経験の共有を通じて伝える場合、その知識はやはり曖昧で漠然としたものになるために、それを分析したり、他者や過去との比較をしたりすることは難しくなるうえに、伝達できる相手も限られた人にならざるをえない。

そこで営業プロセスを改革して、営業活動で得られる暗黙知のある一部分をいったん形式知に変換することが要請されているのである。つまり営業活動や顧客の状況についての知識をできる限り数値や文字のデータに置き換える努力を払うことであるが、この形式知化には、次の二つの効果を期待できる。

一つは、形式知に変換することで、仮説検証型の改善プロセスが容易になるという効果である。これは営業プロセス革新の改善効果と呼ぶことができる。そしてもう一つは、形式知に変換することで、より多くの他の営業担当者や他部門担当者との情報共有を効率的に行なえるという効果であり、これは営業プロセス革新の連携効果と呼ぶことができる。

このように営業プロセス革新では営業活動や顧客状況に関する暗黙知の一部をできる限り形式知に変換することで、改善効果と連携効果の二つを導き出すものと理解されている。

(参考文献:高嶋克義『営業改革のビジョン』光文社新書、2005年)

Copyright © 2006 , 高嶋克義

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