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ビジネス・ジャーナリズム

長田貴仁

「ビジネス・ジャーナリズム」とは、経済、経営、企業家(経営者)、そして、企業およびその他の組織で働く人々を取材対象にしたジャーナリズムである。新聞社やテレビ局では、「経済部」が担当している領域だ。雑誌においては、「経済誌」や「ビジネス誌」と呼ばれる媒体がそれに当たる。

アメリカでは、“Business Journalism”がジャーナリズムの一大分野として確立しており、歴史も日本よりはるかに古い。そのルーツともいえる商業メディア(媒体)が発行されたのは、18世紀中頃の植民地時代だ。それは、Price Currentという業界紙で、輸出入業者、生産者、販売業者向けに、輸入商品の価格リストを中心に最新の情報を提供した。1815年にニューヨークで、後に商業情報を扱う経済紙Journal of CommerceになるThe General Shipping and Commercial Listが創刊された。39年には、初のビジネス誌The Merchants’ Magazine and Commercial Reviewが登場する。50年〜80年代に入ると、業界紙の創刊ラッシュになる。その背景には、新産業の出現とともに、徒弟制度から経営の近代化が進み、市場、技術、雇用に関する情報が求められるようになってきた事情がある。89年に創刊されたThe Wall Street Journalは、順調に成長し、総合ビジネス紙として不動の地位を築く。

1909年にJames McGrawとJohn Hillが設立したMcGraw-Hill Company(後のMcGraw-Hill Publishing Company) は、業界を啓蒙するだけでなく、広告媒体としての価値を高め、設立7年目にして10の専門ビジネス誌を持つ企業に育った。

第一次世界大戦(1914年7月〜18年11月)が始まると、専門メディアに対するニーズが一挙に高まった。McGraw-Hillをはじめ、多くの出版社が、金属や石油など新産業、新技術に関する雑誌を相次いで創刊した。

McGraw-Hillがビジネス専門誌の雄として確たる地位を築いたのは、1929年にThe Magazine of Business(現Business Week)を創刊したことにある。同誌より12年早く創刊されたForbesや5ヶ月後の1930年2月にTime, Inc.から刊行されたFortuneは、いずれも月刊から隔週刊へ移行し、Business Weekと激しい競争を展開している。

日本でビジネス・ジャーナリズムとして市民権を得ているメディアは、より一般メディアに近い、経済紙・誌だ。アメリカで見られる、経済に強い一般紙および総合ビジネス紙・誌のような存在である。いわゆる業界紙・誌は、一ランク下に見られているようだ。ただしそれは一般的見方であり、実際にはそれぞれの業界で存在感があり、注目、尊敬されている業界紙・誌は少なくない。

多くのビジネスマンに読まれている「日本経済新聞」(日本経済新聞社、304万6975部=06年上期)は、1876年に「中外物価新報」として発刊、89年に「中外商業新報」(中外商業新報社)に改題された。第二次世界大戦中の1942年に、「日刊工業」、「経済時事」両紙と合併し「日本産業経済」と改題する。終戦翌年の46年、社名を日本経済新聞社に変更し、題号も「日本経済新聞」に改めた。その後、同社は飛躍的成長を遂げる。71年に「日経流通新聞」、73年には「日経産業新聞」(16万7445部=06年上期)などを相次いで創刊する。

一方、ビジネス専門誌でも日経グループが勢力を誇示するようになる。1969年、McGraw-Hillとの合弁会社・日経マグロウヒル社(現日経BP)を設立し、「日経ビジネス」(33万2291部=05年下期)を発刊する。その頃すでに、特定の業界ではなく経済・経営全般を対象とする「エコノミスト」(毎日新聞社、約3万部=推定)、「週刊東洋経済」(東洋経済新報社、7万3087部=05年下期)、「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社、11万8959部=同)、「プレジデント」(プレジデント社、21万3920部=同)などが経営者やビジネスマンの間で読まれていた。現在、企業の広報・広告関係者の多くは、これら5つの媒体を「経済5誌」と呼んでいる。

ジャーナリズムは、新聞学、マス・コミュニケーション論、メディア学など、社会学系(社会科学系)アカデミズムの研究対象になっている場合が多い。アメリカに比べるとまだ少ないが、日本でも、情報、メディア、コミュニケーションという研究科、学部、学科名を冠し、ジャーナリズムが果たす役割、及ぼす影響を政治や社会現象との関連について研究、教育を行う大学が増えている。だが、ビジネス・ジャーナリズムは、経営者やビジネスマンがもっとも身近に感じているメディアであるにも関わらず、質、量ともにまだ十分であるとは言えない。

経営学の研究対象とビジネス・ジャーナリズムの取材対象はほぼ等しい。そこで筆者は、実学としての経営学研究において、企業、経営者と交流する機会が多いビジネス・ジャーナリズムの方法論を活用できるのではないかと考えている。アカデミズムとジャーナリズムは似て非なるものだ。その隙間を埋め、経営学者とハイ・エンドなビジネス・ジャーナリストは対話を密にすべきだと思う。
 
Copyright © 2006, 長田貴仁