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知的資産経営と知的資産経営報告

古賀智敏

21 世紀は知の時代と言われる。企業が競争優位性を持って持続的に発展していく源泉として、人材、技術、ノウハウ、ブランド、顧客とのネットワーク等の「見えざる資産」が大いに注目され、それを積極的に活用した経営のやり方がますます重要になってきている。これが「知的資産経営」である。つまり、知的資産経営とは、競争優位性の源泉として自社のもつ強みや無形の価値といった知的資産を認識し、それを戦略的に活用することによって企業の価値創造と持続的な発展を可能にする経営のあり方である。

知的資産経営は、具体的には大きく次の 3 つのフェーズから構成される。第 1 に、戦略的に決定的に重要な知的資産を把握するフェーズであり、第 2 に、それらの代理測定値としての特定の指標を決定するフェーズである。また、第 3 に、知的資産経営の活動結果を内部的に分析し、報告し評価するフェーズである。第 1 フェーズでは、自社の戦略的目的は何かを把握し、それを達成するためには、どのような知的資産が必要であるかを決定しなければならない。第 2 フェーズでは、知的資産を大きく「人的資産 ( human capital ) 」、「構造資産 ( structural capital ) 」、および「関係資産 ( relational capital ) 」 の 3 つに区分し、それぞれの知的資産のストックとフローに適合した測定指標を特定化しなければならない。第 3 フェーズでは、このような知的資産を用いたマネジメントの活動結果を分析し、モニタリングしなければならない。このように、知的資産経営では「知的資産の把握−測定−モニタリング」によるマネジメント・プロセスを組み込みつつ、企業の価値創造ダイナミズムが展開されていくのである。

知的資産経営は自社の差別化を図るために重要であるが、その更なる促進を図るためには、知的資産や知的資産経営の成果を広くステークホルダーに開示し、その幅広い理解と評価を獲得しなければならない。それによって、証券市場での「時価総額の増加=企業価値の向上」を可能ならしめ、企業の資金調達を容易にすることができる。この場合、企業とステークホルダーとを結びつけるのが「知的資産経営報告」である。平成 17 年 10 月公表の経済産業省産業構造審議会新成長政策部会経営・知的資産小委員会「知的資産経営の開示ガイドライン」によれば、知的資産経営報告の基本的な目的として、 (1) 企業が将来に向けて持続的に利益を生み、企業価値を向上させるための活動を経営者がステークホルダーにわかりやすいストーリーで伝え 、 (2) 企業とステークホルダーとの間での認識を共有することにある ( 第 2 章・ 1 ) 。その具体的内容としては、事業の性格と経営の方向性、将来見通しを含む業績、過去及び将来の業績の基盤となる知的資産とその組み合わせによる価値創造のやり方、将来の不確実性の認識とそれへの対処の方法、および上記を裏付ける知的資産指標が含まれる ( 第 2 章・ 3 ) 。

このような知的資産経営報告のモデルになったのは、スウェーデン、デンマーク等の北欧を中心とした知的資産運動と知的資産報告書であった。スウェーデン・スカンディア社 ( Skandia ) は、知的資産のマネジメントのために「スカンディア・ナビゲータ」というモデルを設定し、企業の見えざる知的資産レポーティングの先駆け企業となった。また、デンマーク貿易産業省によって策定された「知的資産報告書ガイドライン」 ( 2000 , 2003 ) は、知的資産レポーティングのフォーマルなガイドラインをなすものであり、わが国の知的資産経営とその報告の整備と発展に向けても大きな影響を与えたであろう。
 
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