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シックスシグマ
伊藤嘉博
 

カタカナで表現されるビジネスのキーワードには、名前だけは聞いたことがあるが詳しくはわからないといった類のものが多いようです。シックスシグマ(Six Sigma)も間違いなくそのひとつでしょう。

シックスシグマは、米国のモトローラ社で開発された品質革新手法ですが、1996年にGEがこの手法をベースとした「クオリティ2000計画」の実施を公表したことで、一躍有名になりました。またわが国でも、1997年秋にソニーが世界規模でシックスシグマを導入したほか、東芝や日立マクセルをはじめとする大手電機メーカー、さらには化学大手シマノやGE横河メディカルシステム、住友スリーエムなどがこれに追随する動きをみせたことで、注目を集めました。

さて、シグマ(σ)とは標準備差のことです。わが国のTQC実践では、一般に3σが品質不良ないし工程内異常を判断する際の目安とされ、QC7つ道具のひとつである管理図における管理限界線もここに引かれています。正規分布における±3σの範朗内には全体の約73%が含まれますから、一見するとそれは高い品質レベルのように思えます。しかし、これを100万機会あたり欠陥率(Defect Per Million Opportunity:DPMO)で考えると2,700回は欠陥が発生することになり、けっして良好な品質レベルとはいえません。しかし、問題はそれだけにとどまりません。品質分布は、短期的にはともかく、長期には±1.5σ程度のブレが生ずると考えられるため、分布の平均をその分だけずらすと、3σレベルのDPMOは実に66,807回にもなってしまうのです。

シックスシグマでは文字通り6打の品質レベルの実現を目標に掲げていますが、しばしば強調されるように、それはDPMOでは3.4個(3.4ppm)に相当します。しかも、それは上述の±1.5σのシフトを考慮した上での話であり、この調整を行わないとしたら、6σはDPMOで0.002回という、ほとんどパーフェクトに近い品質レベルということができます。

このことからも明らかなように、現実問題として6σの実現はほとんど不可能に近いといえるでしょう。いいかえれば、それは品質改善活動のスローガンの域をでるものではありません。ただし、単に究極に近い品質レベルの実現をスローガンとして品質改善に取り組むだけなら、従来わが国で実践されてきたゼロデイフェクト運動と変わりません。

この点、シックスシグマでは、生産工程だけでなくサービスや管理部門の業務効率化を視野に含めた幅広いアプローチがとられることがまず特徴としてあげられます。したがって、シックスシグマはかつてのBPR(Business Process Re−engineering)のように、顧客満足の視点に立って経営プロセスのいたる所に潜む無駄や非能率を見直そうとする全社的な業務革新運動であるといったほうが、その内実を正しく反映しているといえるかもしれません。もっとも、シックスシグマにあっては、いわゆる外部顧客および内部顧客といった既存の枠組みにとらわれず、広く株主をも顧客と考えたうえで、徹底した顧客満足をトップダウンで追求していくこと、さらに、経営プロセスの改善を経営上の質の向上という観点から見直し、しかもその成果を利益に対する貢献度という視点から評価することなど、BPRを越えた展開が随所にみられます。

加えて、業務改革の改善効果を診断する指標として、「不良品質コスト」(Cost of Poor Quality:COPQ)というスケールが用いられている点も、シックスシグマの大きな特徴の1つです。すなわち、シックスシグマによってもたらされる成果をもっとも確実に知る方法は、作業のやり直しや非効率、顧客の不満、売上げの喪失などによる損失を計算し、それを減らすことでどれだけ利益額が改善されたかをつかむことです。また、品質改善活動の優先順位を決定するためにも、それが財務上どれだけの利益増につながるかを把握することは重要です。事実、経営そのものの効率を高めようとすれば、改善すべきプロセスや活動は無数に存在します。他方で、経営資源は有限ですから、改善すべきプロセスや活動の優先順位を決定しなければなりません。

そこで、各改善プロジェクトが財務上どれだけの利益増につながるかを予測するとともに、事後的にも実績を同様な視点から判定する必要があります。COPQは、品質改善が利益業績に及ぼす効果を失敗コストの減少額としてダイレクトに表示しますから、シックスシグマにとってまさに理想的なスケールであったといえます。そして、こうした業務改善活動の成果を判定する具体的な指標をもつことが、かつてのBPRとシックスシグマの決定的なちがいでもあるのです。

 
(Copyright(c),2003 伊藤嘉博)