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研究スタッフが選ぶ、オススメ図書

商学分野 教授 出井文男

 

グローバリゼーションに関する二つの本を推薦しよう。最初の本は現在グローバリゼーションという言葉が意味する今日的事実を扱った書物である。これに対して、2冊目の本は、長い歴史を眺めるならグローバリゼーションは昔から存在し、その程度がますます深まってきたことに気づかされる本である。


伊藤元重(著) 『グローバル経済の本質』 (ダイヤモンド社, 2003年)

序章において、2001年9月11日米国での同時多発テロにより、ボストンからの高級マグロの空輸がストップしたため日本で寿司の値段が上がった、というエピソードが紹介される。そして、このように世界中の経済が深いネットワークで繋がっていることがグローバル経済の本質である、と結論される。小生は学部ゼミ3年生に経済学や貿易論の基礎を勉強したあと、国際経済に関する啓蒙書を読んでもらうことにしている。本書が出版されてからは、これを輪読して国際経済の現実について議論することを続けてきた。何年か読んでいるが、取り上げるたびに著者の議論に感心するのである。一番感心するのは、バランスの良さである。何事にも一長一短があるのは当然であるが、著者はそれを長期的視野あるいは消費者の利益という観点から、問題をバランスよく整理し、明解な主張を述べている。日ごろ新聞で著者の書いたものを読むときも時間の無駄にならないと安心して読むのであるが、本書も何度読んでも良い本だという評価に変わりがないのである。出版されてから5年ほど経っているから、読者は著者が使ったデータに新しいデータをつなぎ、改めて著者の主張を検討するという読み方ができると思う。類似の本として、著者は『大変化』(講談社、2008年)を出版しているが、こちらはテレビ番組の制作と同時並行で進められたことと関係があるのか、本書ほどは感心させられない。小生としては、本書のほうを薦めたい。

 

アンガス・マディソン(著), 金森久雄 (監訳) 『世界経済の成長史1820〜1992年』 (東洋経済新報社, 2000年)

学部の「国際貿易」の授業の第一回目に、この本の内容についてしゃべることにしている。なぜ国際貿易が重要であるかを歴史的観点から説明できるからである。本書によると、経済成長は1820年から1992年まで格別速く、世界人口は5倍に、1人当たり生産量は8倍に、したがって世界のGDPは40倍に、そして世界貿易(世界の輸出)は540倍に増大したのである。このような1人当りの産出量の大幅な増加がなぜ可能であったかを説明するものとして、次の4つの主要な「経済成長に影響を及ぼす諸要因」が長い期間にわたって存在してきたと、指摘されている。(a) 技術進歩、(b) その技術進歩を実現するのにつねに必要な物的資本の蓄積、(c) 人の技能、教育、組織能力の改善、(d) 商品やサービスの貿易、投資、知識や企業家間の交流を通した各国経済のより緊密な結びつき。最後の(d)で貿易について触れられており、貿易の持つ役割に関してさらに次のように論じられている。1. 国際貿易の発達は、各国が最も効率的な部門に生産を特化させることを可能にするという点で、重要であった。2. 貿易の発達は、自然資源に制約のある国々の弱点を排除するものでもあった。3. 貿易は新しい製品と新しい技術を普及するうえでも重要になってきている。これらは、小生の授業で理論的に詳しく説明するのであるが、長い説明の前の良い要約になっている。本書は1番目に取り上げた本に比べると大変地味な感じの本であるが、歴史の重みを楽しめる本として推薦できる。

(Copyright © , 2009, 出井文男)