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2013年度テーマプロジェクト研究最終発表会
 

2014年1月4日(土)

第6回のテーマプロジェクト研究が新年1月4日に開催されました。年末年始、ほぼぶっ通しでの研究のまとめと発表準備というスケジュールになってしまいましたが、例年の発表に比べても、すべての発表において、仮説とその導出に工夫がされており、完成度の高いものになっていました。とは言うものの、研究発表について、審査委員からさらにどういうアングルから研究を深堀すべきか等の辛口コメントが多々出てきました。加護野先生からは、「(この研究は将来性があるので)もう一年大学に残って、研究を続けてください。」という最大級の賛辞も飛び出し、研究題材、着眼点、発見の面白さと将来性というものに溢れた絶好調の研究発表会でした。

今年は、11チーム、各チーム20分の発表と10分の質疑応答を12名の審査委員(加護野先生、来年度の演習担当の高橋潔栗木契梶原武久松嶋登先生、経済経営研究所の松本先生、シニアMBAフェローの明石、井上、好川、田中、二宮氏、そして、指導教員の松尾博文)が評価しました。発表のタイトルとケース対象企業は発表順に以下のようになりました。ここで記述したケース対象企業の他に、多数の企業訪問・インタビューが行われ、また多数の他大学の専門家の皆様からもアドバイスをいただきました。多忙の中、インタビュー調査に協力していただいた、経営者、企業の方、大学等の専門家の皆様には、厚く御礼を申し上げます。また、恒例になりましたが、11月9日の中間発表では、神戸大学MBAの先輩であるMBAフェローの皆様には研究方法も含めて有益なコメントと暖かい励ましの言葉をいただきましたことに御礼を申し上げます。

発表タイトルとケース対象企業・事業
『少人数世帯の増加がもたらした企業活動の変化』(リンクバル(街コンビジネス)、セコム(個人向けセキュリティビジネス)、公益社(燦ホールディングス)(葬儀ビジネス))
『国内市場における女性用商品の男性向けマーケティング』(パナソニック(メンズ・グルーミング商品)、ワコール・ホールディングス(クロスウォーカー)、ナイガイ(メンズパンスト))
『日本企業でのイノベーションにおけるイレギュラーなプロセスの考察』(東レメディカル(血液浄化装置)、三菱自動車(電気自動車)、サントリー(近大マグロ専門料理店))
『まちかどのプレミアム戦略研究?価値を価格に反映させるための秘訣とは??』(ハッピー(クリーニング業)、医療法人A&D(歯科医院)、細野(靴屋))
『オタクアニメを活用した新たな価値の創造と獲得』(聖護院八ツ橋総本店(八ツ橋)、参天製薬(サンテFX)、トヨタ自動車(オーリス)、全日本刀匠会事業部(日本刀))
『大企業発コーポレートベンチャリングの研究?眠りゆくシーズを救え?』(PUX(パナソニック発)、モフィリア(ソニー発)、ラティス・テクノロジー(リコー発))
『起業で成功するには??ITベンチャーにおける起業プロセスとネットワークの関連性?』(シナジーマーケティング(CRM関連サービス)、チップワンストップ(電子・半導体部品のネット販売)、イー・アクセス(通信業)、ジャフコ(ベンチャーキャピタル)
『メガイベントを飛躍の機会とした企業の研究?2020年に向けた提言?』(セコム(警備)、太陽工業(テント構造物)、ビックホリデー(旅行代理店)、中央タクシー(タクシー))
『ユーザー参加型ビジネスの成功要因の研究?不特定多数の力を活用するには?』(クックパッド(レシピサイト)、フォードOpenXC(車用プログラミンのプラットフォーム)、マイファーム(農業・農園))
『『手間ひま』をかけて社員のやる気を引き出す企業研究?官僚的組織の逆機能への挑戦?』(ナベル(卵自動選別機)、徳武産業(介護シューズ)、タニサケ(ゴキブリ団子)、いろどり(葉っぱ販売))
『模倣再考?『見抜く力』を起点に成長を遂げた事業からの考察?』(ジェイアイエヌ(メガネ小売業)、トリドール(丸亀製麺))、学校法人須磨学園(中学・高等学校))

金賞は、『オタクアニメを活用した新たな価値の創造と獲得』を発表したチームが獲得しました。オタク市場へのナショナルブランドや伝統企業の参入状況、「大人向け」で且つ「はまり度」が深いアニメをオタクアニメとするという定義から始まり、何故、この市場に参入するのか、オタクアニメ活用のコツは何かというリサーチクエスチョンとその答えとなる仮説が提示されました。聖護院八ツ橋と魔法少女まどか☆マギカ、参天製薬のエヴァンゲリヲン目薬、トヨタ自動車のガンダムオタクねらいのシャア専用仕様のオーリス、全日本刀匠会のエヴァンゲリヲンと日本刀展とか、指導教員の知らない世界の単語と記号と絵がMBA生から発せられ、なるほど、冗談ではなく、何故、大企業・伝統企業がオタクアニメ活用というような発想になるのかという問題意識がしっくりきました。オタクアニメ活用の目的は今まで自社商品に興味のなかった 新規顧客獲得であり、特殊な世界観に則り、オタクパワーを活用し、組織風土変革につなげるということが明らかにされました。さらに、このようなオタクアニメ活用企業自身も、その効果は一過性であることを強く認識しているという風に結ばれました。なるほどとうならせるような論理の展開と洗練された発表でした。きわものと経営の本流の対照、経営へのインパクト、非常に詳細で厳密なリサーチ、計算された発表と、徹底的に調べ、考え抜かれていました。細分化された顧客セグメントをしっかり理解するということの意味が共有されたと思います。

銀賞は、『模倣再考?『見抜く力』を起点に成長を遂げた事業からの考察?』のグループが授与しました。模倣という言葉の負のコノテーション、模倣ということは学ぶということの基礎だから当然イノベーションの第一歩となるというような浅薄な把握ではなく、模倣の妙を成功事例に理路整然と語らせてみようという内容でした。ユニクロのヒートテックの成功例からJ!NSのPC用のメガネを類推し、開発するという高度な模倣。ドトールコーヒ?の成功事例の模倣として、安価なセルフのうどん店である丸亀製麺を着想するという意味での模倣。民間企業経営の模倣としての学校法人経営の須磨学園。ここでいう模倣は、成功している経営のしくみを異業種に移植することであります。模倣は、成功事業事例の一般化、単純化、構造化という一連の類推のメカニズムを経て実現されているという分析がなされました。単なる異業種企業のベンチマーキングというのではなくて、類推のプロセスが明確にされ、ある事業の成功事例を他業種の事業へと移植する方法論開発というレベルの具体的で有用性の高い研究結果でした。

銅賞は、『少人数世帯の増加がもたらした企業活動の変化』のチームが受賞しました。現在、世帯構成人員数が2人以下という少人数世帯は60%であり、実はメインストリームの市場であるという報告から始まりました。出会いの機会を提供する街コンビジネス、安心安全を提供する個人向けのセキュリティビジネス、遺族に癒しの場と生活サポートを提供する公益社のグリーフケア。このような少人数世帯の時代ならではサービスをどう捉えるかということが主題となっていました。家政学のコンボイモデルを用いて、これらのサービス事業事例を機能的価値提供としてだけではなく、「コンボイの穴」から生まれる不安を解消する社会的サポート提供と位置付けるという解釈を提案されました。既存の理論的フレームワークを適用して、少人数世帯向けのサービスの意味、位置づけをうまく説明できていると思いました。今は少人数世帯がメインストリームであるので、サービスコンセプトの設計時にどう考えるべきであるのかという問いの一つの解答になっていると思います。秀作です。

以上のように、入賞3点の発表の完成度は高く、その知見の経営実践へのインパクトは、非常に高いと評価できます。また、これら3点の発表は20分という短い時間を有効に使った卓越したものでした。

入賞を逃したすべてのチームで今回は事例がかなりのことを語っていたように思います。しかしながら、複数の事例をどうまとめ、有用性のある知見に昇華させるかというところで、入賞した3点は素晴らしかったと思います。

今回、特に敢闘賞を与えるべきではないかと感じさせた発表は、『大企業発コーポレートベンチャリングの研究?眠りゆくシーズを救え?』と『起業で成功するには??ITベンチャーにおける起業プロセスとネットワークの関連性?』の2件です。起業というトピックでは、経営全般の問題を包括的に考えなければならず、テーマプロジェクト研究の題材としては、その重要性にもかかわらず、絞り込みが難しいという意味で、難題であります。過去5回のテーマプロジェクトでも、その重要性ゆえに、たびたび取り上げられましたが、未だ完成度の高いものは出ていません。今回の2件の研究は、従前のものと比べるとかなり、知見というものに迫ってきていたと思います。大企業で埋もれている起業シーズの活用、起業家の人的ネットワークに着目と切り口はかなり有望であったと思います。また、100本の論文を読破し、研究課題の絞り込みをしたというような努力も見られました。しかしながら、研究の完成度ということで、上位に食い込めなかっただけで、研究の推進度という基準では、高く評価できます。道自体が遠いので、節目まで到達しなかっただけということでしょう。という意味で、敢闘賞に相応しいと判断します。来年度のテーマプロジェクトでは、是非とも、この2チームの達成点を引き継ぐ形で、起業というトピックで入賞するチームが出てほしいと思います。テーマプロジェクト研究では、Reinventing wheelではなく、過去のチームの成果を引き継ぐことも推奨します。

(文責:松尾博文)

※2013年度 金賞チームのインタビューはこちら