神戸大学MBA

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2012年度テーマプロジェクト発表会
 

2013年1月5日(土)

第5回のテーマプロジェクト研究が新年早々の1月5日に開催されました。今年のテーマプロジェクト研究の研究テーマは、変革をキーワードにしたものが目立ち、現状の停滞した企業経営が問題意識の源泉となっているように思えました。研究の水準においては、リサーチ・クエスチョン、仮説設定、インプリケーションの流れが良い発表が多く、また、研究スタイルでは、単なる現状調査の研究ではなくて、何故、如何にというような問いへの答えに対応する因果関係の特定ということが徹底されていました。フィールド調査を経て、仮説形成と検証のサイクルが繰り返されて、仮説が鋭くなっている発表がみられました。また、発表内容も20分の発表時間に対応して、絞り込まれており、プレゼンのスタイルも洗練されていました。今年のMBAクラスは全体として、『優』評価がふさわしいと思います。個々のグループの優劣ではなく、全体が優れているということが達成できていました。これが神戸大学MBAのスピリットでしょう。

今回は、12チーム、各チーム20分の発表と10分の質疑応答を6名の審査委員(加護野先生、来年度の演習担当の平野(光)先生、砂川先生、三矢先生、若手の平野(恭)先生、そして、指導教員の松尾)が評価しました。発表のタイトルとケース対象企業は発表順に以下のようになりました。ここで記述したケース対象企業の他に、多数の企業訪問・インタビューが行われ、多数の専門家の皆様からアドバイスをいただきました。

『顧客情報の有効活用によるゲームチェンジ?企業と補完企業の協調関係からの考察?』(JR東日本ウォータービジネス、光文社「MART」、パーク24)
『従業員が自発的に働いている企業の研究?なぜあの会社の社員はイキイキしているのか??』(万協製薬、天彦産業、日本理化学工業)
『経済的価値と社会的価値を創造している企業の特徴』(未来工業、アイ・ケイ・ケイ、伊那食品工業、エフビコ&ダックス)

『評価ビジネスの研究』(帝国データバンク、オリコン、ミシュランガイド、食べログ)
『伝統産業の後継者による経営革新』(西山酒造場、光洋製瓦、開化堂、萬乗醸造、TTNコーポレーション)
『顧客接点活用による製造業の収益力強化事例の探索』(パナソニック株式会社AVCネットワーク社、タビオ、ダンロップスポーツ、ネスレ日本)
『製薬バリューチェーン再考?バリューチェーンの解体とコア・ケイパビリティへの集中?』(ユーメディコ、イーベック、タカラバイオ、シミック、そーせい、シンバイオ)
『リアル店舗によるEC活用方法の研究』(ユナイテッドアローズ、コメリ、TSUTAYA、ジュンク堂書店)
『製造業におけるサービタイジングの導入プロセスに関する研究』(オフィスグリコ、ダイキン工業、コベルコクレーン)
『医療機器事業に参入するためのGambit(打ち手)?参入企業の3類型?』(京都医療設計、コーナンメディカル、リバー精工)
『急成長を遂げる新興ITプラットホーム企業の研究』(エムスリー、スタートトウデイ、アイスタイル、リブセンス)
『『恥ずかしいコト・モノ』が生み出す市場の研究?共感と解放による市場顕在化とビジネスの創造?』(エーザイ、ニッセン、ワコール、TENGA)

金賞は、『『恥ずかしいコト・モノ』が生み出す市場の研究?共感と解放による市場顕在化とビジネスの創造?』を発表したチームが獲得しました。ボケ・痴呆ではなく、認知症の治療薬として「アリセプト」を浸透させたエーザイの事例。ぽっちゃりさんのオシャレの店である「SMILE LAND」のニッセンホールディングス、大きな胸を小さく見せるブラのワコール、男性用マスターベション用品のTENGAの事例研究。この研究では、恥という感情を解放するプロセスに3つのステップがあるという仮説形成をしました。あなただけじゃないよという(共感)、あなた変じゃないよという(承認)、Enjoyしていいのだという(受容)という3つのステップを経て恥と偏見から解放されるとしています。さらに、この恥と偏見からの解放は、潜在的なマーケットを顕在化するとしている。経営者、従業員、医学や社会学の専門家、ユーザーと広くインタビューされており、言葉の定義や論理構成がしっかりしていました。チームメンバーの一人が薄毛対応ビジネスを起業するという究極の目標を掲げ、その理論的基盤となる研究をするということで、グループメンバーのフォーカス、真剣さ、情熱というものが感じとられました。深刻な身体的特質にかかわる経営問題を学術的に扱い、言葉の定義、論理、検証が徹底的に行われていたこと、多くの内容を洗練されたプレゼンで伝えたということが高く評価されたと思います。

銀賞は、『顧客情報の有効活用によるゲームチェンジ?企業と補完企業の協調関係からの考察?』のグループが授与しました。JR東日本のSuicaのデータと駅ナカ飲料自販機のPOSデータ、光文社「Mart」の読者の声、パーク24のカーシェアリングのデータ。このチームは、こういう顧客情報データを持つ企業がそのデータを有効に使うことができる企業と連携し、win-winの新しい価値をどのように創造しているかを示しました。日本の企業は総じてですが、戦略的アライアンスを通じて、新規のビジネスモデルを構築するということが欧米並みにはできていないと思います。顧客情報の活用という切り口で、イノベーティブなビジネスモデルが連携を通じて構築されている事例は貴重です。このチームは、シェアリングビジネスの研究ということで、中間発表をしたのですが、審査委員のMBAフェローの皆さんの評価は低く、その敗因を徹底的に分析して、短期間で研究をほとんど一からやり直しました。打たれ強さ、冷静さ、研究を成し遂げるという意志には敬意を表します。中間発表後は飲み会の時間がもてなかったそうです。しらふでも元気に頑張れるMBAということでも評価したいと思います。

銅賞は、『伝統産業の後継者による経営革新』のチームが受賞しました。ケースでは、西山酒造場、光洋製瓦、開化堂、萬乗醸造、TTNコーポレーションの企業後継者に、経営革新を語らせました。これまで伝統産業では聖域となっていた職人の存在自体をクリティカルに見直すことで経営革新ができたという事例でした。伝統の維持と現状維持、職人の技と行動を客観的に分析することなど、伝統と革新が矛盾するコンセプトではないということが、事例を通じて示されました。この発表では、長寿企業の経営に造詣が深い加護野先生の初期のインプットも入っているのですが、意外な展開の研究になっていました。加護野先生のコメントは、日本のある窯元では、世代が変われば革新をしなければならないという伝統があるというフォローアップがありました。現状維持からなかなか決別できない日本の経営者には、見ていただきたい発表でした。

以上が入賞チームの発表でしたが、私個人的には、第4位に入った『製造業におけるサービサイジングの導入プロセスに関する研究』を高く評価します。チームメンバーは製造業に従事するMBA生で、日本の製造業のマンネリズムからの脱却という強い問題意識を共有していました。サービス収入が増加している複数の製造業の事例において、サービス価値の創造というものは後付けの解釈で、顧客接点が別のなんらかの理由で作られたことが、新規のサービスを提供するプロセスの発見と創造につながったということが示されました。サービサイジングの導入プロセスで、事前に想定できることと、できないことがあること。ともかく製造業は顧客接点を増やすべきではないかという重要なインプリケーションがあります。サービサイジングの成功例が増えてきているのですが、その導入プロセスに着目している点が、その実行に関する問題意識の高さを表しており、研究自体も重要な意味を持ち、新規性が高いと評価します。

今回の発表の教訓としては、意味のあるインプリケーションにつながる仮説を形成することの重要性、また、仮説とそのサポートとなるエビデンスの固め方について、考え抜くことの重要性が挙げられます。加護野先生の言葉をお借りすれば、わかった、あるいは、できたと思ってからもう一度、深く考えることで、貴重な発見ができるということです。

テーマプロジェクトも5回目を迎えて、コンペティションは高度なものとなっています。強い覚悟で勝ちにいかないと入賞はできません。審査員のレスポンスを考えた発表でないと、評価では高得点は得られません。今回の発表はすべて、内容については満足のいくものでした。多分、それぞれのチームもその点については、自信があったと思います。言葉が厳密さをもつ発表、論理に筋が通っている発表、深いインプリケーションがある研究という点で突出した発表が上位を占めたと思います。

テーマプロジェクト研究はフィールド調査に基づくもので、さまざまな方の協力なしでは成り立ちません。多忙の中、インタビュー調査に協力していただいた、経営者、企業の方、大学等の専門家の皆様には、厚く御礼を申し上げます。また、恒例になりましたが、中間発表では、神戸大学MBAの先輩であるMBAフェローの皆様に研究方法も含めて厳しいコメントをいただきましたことに御礼を申し上げます。

(文責:松尾博文)


※2012年度 金賞チームのインタビューはこちら


銀賞チーム


銅賞チーム