神戸大学MBA

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2010年度テーマプロジェクト発表会
 

2011年1月8日(土)

MBAの1年前期にケースプロジェクト研究、後期にテーマプロジェクト研究を行うという体制になって、今年で3年目になります。今回のテーマプロジェクト研究最終発表会には、神戸大学MBAが標榜する“by-the-job learning”のコンセプトの生みの親であり、日本の経営学の重鎮である加護野教授に午前8時50分から午後6時まで終日、特別審査委員として参加していただきました。12チームによる20分の発表と10分の質疑応答、7名の教員による審査と順位づけという舞台設定で、昨年の8月21日から取り組んできたフィールドリサーチの成果が共有されました。テーマプロジェクト研究は、社会人MBAが会社で抱いていた問題意識を大学という場で共有し、リサーチクエスチョンを設定し、フィールドリサーチを通じて、その答えを仮説形成・検証という形で創造していくプロセスです。自分の頭で考え、他人の頭も使い、文献を読み解き、フィールドリサーチで見聞・体験した自分にとっては非日常の事例から意味のある因果関係を見出し、説得力と論理性をもって発表できるかということが問われています。

今回の最終発表会では、加護野教授からいろいろな局面で鋭利な突っ込みがありましたので、そのことを踏まえて、この報告書をまとめてみたいと思います。以下に、発表順に研究テーマとケース企業名(略称)を挙げてみます。加護野教授の総括の弁によりますと、平成元年にこのMBAプログラムが創始された時と比較して、社会人学生の問題意識が変わってきているということです。20年前は、会社で直面する問題に対し、合理的な解決方法を求めるというものだったそうですが、現在は、合理性を超えたもの、もっと直感的なものも模索されているのではないかということでした。次のリストを見てどう思われますか。

 『ロングセラー商品の秘密』(日清オイリオグループ(株)、 (株)ミツカングループ本社、 サラヤ(株))
 『コモディティ化との戦い方?逸品企業を例に?』(亀の子束子西尾商店、 (株)白鳳堂、 株式会社 八幡ねじ)
 『スポーツ・文化ビジネスをどのように成功させるか』(天満天神繁昌亭、 オーケストラ・アンサンブル金沢、 アルビレックス新潟)
 『非営利団体の組織に関する成功要因の研究』(乳房健康研究、 NICCO、 Room to Read)
 『転地に至った経営者の意志決定プロセスの研究』(林原グループ、 日本コルマー(株)、 福田金属箔粉工業(株))
 『「必要なムダ」の解明?「掃除」の効用を通じて?』((株)武蔵野. (株)ノアインドアステージ、 (株)新宮運送、 他6社)
 『食品加工の次世代型付加価値創造の考察?社長、何で、これやりますの??』(株式会社アビー、 八尋産業株式会社、 Sマシン株式会社)
 『高収益企業における「イズム」の役割』(武田薬品工業株式会社、 株式会社キーエンス、 ザ・リッツカールトン大阪、 日本食研ホールディングス株式会社)
 『熱い企業の研究』(味の素株式会社、 ダイキン工業株式会社、 大和ハウス工業株式会社)
 『病院における看護師の定着性』(聖隷浜松病院、 関西電力病院、 先端医療センター病院、 北野病院)
 『暴走小売物語』(株式会社セブン-イレブン・ジャパン、 神戸物産株式会社、 フレッシュフィールド株式会社)
 『「見せる」仕事の裏側は??見えないプロセスを見せる企業の研究?』(ホンダクリオ明舞、 JR西日本メンテック、 昭和電機)

例外なくどの発表も非常に興味深い事例と練られた構成になっていました。審査委員の評価も割れましたが、その中で比較的広く支持を得た『「見せる」仕事の裏側は??見えないプロセスを見せる企業の研究?』が金賞を勝ち取りました。車検業務や、駅の清掃というような従来、お客から見えない場所・時間に行われてきた黒子の業務を見せることの意味が非常に明確に伝わりました。顧客とサービス提供者の接点を敢えて創出することにより、顧客満足と従業員満足の同時達成という、サービス産業での定石の援用の有効性を示しました。さらに、製造業の昭和電機で、生産現場で働く社員をユーザーに積極的に見せる取り組みという事例を持ってきて「見せる化」の効用の普遍性を強調したところが評価されました。もちろん、「見せる化」の合理性という解釈で納得すればそれで良いのでしょうが、これらの事例は、うがった見方をすれば、もう少し深い問題を提起しているかもしれません。従来、サービス産業においては、工場のライン生産のようなアプローチがとれる業務部分は、なるべく顧客の目線から切り離して、粛々と効率的に運用するという配置になっていました。少なくとも日本ではそれでうまくいっていたはずなのですが、それをお客の前にもってこないと顧客も従業員も満足できないというのでしたら、これはかなり重要な意味があります。もう一段、深掘りする必要があるかもしれません。

銀賞は、『「必要なムダ」の解明?「掃除」の効用を通じて?』に授与されました。整理、整頓、清掃、清潔、躾の5S活動は、日本のモノづくりの原点であり、世界中の製造現場でその有効性は確認されています。しかしながら、5S活動についての学術的な研究は非常に稀であり、加護野門下の大森信教授がその数少ない研究者です。大森教授によると、掃除と企業業績の相関の定量評価は極めて困難だそうですが、それでも掃除を重視する経営者が多いのはなぜかという問いをこのグループは設定しました。9社のケースを調査することにより、掃除が一体感・帰属意識を醸成し、従業員の行動変容をもたらすという仮説を形成、検証しました。特に、23歳の入社4年目の職人さんに、掃除とはと質問して、「心の余裕」という答えをききだしてきたことは興味深い。何が今の社会と企業に欠けているのでしょうか。さらに、このグループは、神戸大学六甲台の第3棟1階のリノベーション前の多分この界隈で一番臭い男子便所を全員で2時間かかって清掃して、「最後までやりきりたかった」という気づきを得たということでした。確かに、臭いは無くなりました。感謝。 

銅賞の『転地に至った経営者の意志決定プロセスの研究』は、三品教授の転地の研究に関連して、転地に導いた経営者の意思決定プロセスはどのようなものだったかを考察しました。経営者が転地に至る意思決定を行う要因を危機感、使命感、先見性、事業感と番頭さんの存在とまとめました。よくまとまった構成と発表だったと思います。この発表の後、会社更生法の適用を申請することになった林原グループを取り上げたことは、皮肉でありますが、貴重な体験であったと思います。この発表の質疑応答で、加護野教授が違うコンテキストで言った、「人の言うことをそう簡単に信じたらいかん」というコメントは、研究では非常に大事になります。

今回は、他のすべての発表も興味深く、完成度も高かったように思います。上記の研究を含めて、もう一度、リセットして見直してみると、とんでもなく有用な研究になると思います。前回のテーマプロジェクト研究に比べて、フィールド調査時に、各組織の様々なステークフォールダーの意見が聴取されており、説得力がより高い研究となっていました。また、『熱い企業の研究』は、従業員と経営者の熱さに焦点を絞った優れた研究でしたが、「熱さ以外に何かを感じましたか、テンションのようなものがあったでしょう。そういうものが加われば、すばらしい研究になるでしょう。」というコメントを加護野教授からいただきました。インタビューには、思い込みに執着せず、感性を研ぎ澄まして臨みましょう。何か新鮮な気付きがあるはずです。

神戸大学MBAプログラムには、頑張っている問題意識の高い社会人が集まっています。なぜ自分は頑張っているのに、思うようにいかないのか。自分の上司や経営者は間違っていると思うのだが、自分だとどうするのか確信がない。なぜ、同僚や新人は自分のように頑張らないのか。このようなセンチメントがプログラムの中で共鳴しているようです。加護野先生の指摘する合理性を超えた経営問題とは何なのでしょうか。

最後になりましたが、フィールド調査研究に協力していただきました企業、経営者、従業員の皆様に厚く御礼を申し上げます。また、中間発表では、神戸大学MBAの先輩であるMBAフェローの皆様に研究方法を含めて貴重なコメントをいただきましたことに御礼を申し上げます。

(文責:松尾博文)

※2010年度 金賞チームのインタビューはこちら