神戸大学MBA

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2006年度ミニプロジェクト発表会
 

2006年8月5日(土)

プロジェクト実習は、神戸大学MBAプログラムの一大特徴を成す「プロジェクト方式」の一部です。3月末のオリエンテーションで入学生は初顔合わせをしますが、その場でチーム編成が発表され、それ以降4ヶ月間にわたって全員がチームリサーチに従事します。その間、講義科目が並行して走りますが、受け身で授業を受けるだけでは学習効果がいまひとつ上がりません。プロジェクト実習は、講義で学んだことを学生が主体的に応用し、さらに修士論文の入り口に向かって自分の研究テーマを研ぎ澄ます機会を提供するのです。

今年度は、私がこの科目を担当することになり、リバイタリゼーションを共通テーマに据えました。すなわち下降基調に陥った企業が力強く上昇に転じた事例に着目し、そのプロセスと立役者を明らかにし、普遍性のある教訓を導き出そうという趣旨です。86名の入学生をバックグランドに応じて17のチームに割り振ったのですが、どのチームも選んだ事例はユニークで、報告も興味深いものばかりでした。

去る8月5日にその最終成果報告会を開きましたが、我々教官陣は審査に苦労することになりました。どのチームも限られた時間をやりくりして、東京、千葉、名古屋、長野、福井、香川あたりまで遠征して、キープレイヤーの面談調査を実施していたからです。その恐るべき行動力には本当に圧倒されました。金メダルは千葉ロッテマリーンズ、銀メダルはゼロ、銅メダルは同点で、ナルミヤインターナショナルとセーレンを取り上げたチームの手に渡ることになりましたが、メダルの獲得には至らなかった発表も、下手な雑誌記事よりはずっと面白かったというのが実感です。

表彰式を終えたあとは六甲の山を降り、みんなでプロジェクトの終了を祝う会になだれ込みましたが、その前にゼミ配属の発表を済ませたので、学生はその翌々週からゼミ単位でプロジェクト研究に携わっています。次は与えられたテーマではなく、自ら選んだテーマに沿ってプロジェクトを立ち上げます。さらに来春からはプロジェクト演習(現代経営学演習)に移行して、修士論文と格闘することになるはずです。

最終成果報告会が終わって7週間経ちますが、その記憶はいまでも鮮明に残っています。17の事例を横断的に振り返ってみると、記憶の中核を成すのはリバイタリゼーションを率いた強烈な経営者の存在です。極めて強靱な意志の持ち主が、どうもリバイタリゼーションには欠かせないようです。少なくとも11の事例でそういう経営者に出会いましたが、面白いことに、その誰もが日の当たる表街道を歩んできた人ではありませんでした。傍流、または外部から登用された人が、組織に新しい発想を持ち込む。そんなパターンが主流を成していたことが、今でも気になっています。

強靱な意志の持ち主と言えば、みんな顔に力があることにも驚きました。真剣な表情にも、柔和な表情にも、生気が宿っているのです。特に気迫溢れる顔がスクリーンに大映しになると、思わず運慶や快慶を連想させるほどでした。それだけに、女性経営者の事例一件は逆に浮き立ちました。穏やかな表情が、明らかに他の事例とは違うのです。それが何を意味するのかはまだわかりませんが、これも気になる発見でした。

発見と言えば、もう一つありました。17事例のうち、誰を相手に何を売るという意味での「事業立地」をシフトしたケースが10もあったのです。残る7ケースのうち4ケースは公益事業、その4ケースに加えてもう1ケースはオペレーションの改善による回復にあたります。こうしてみると、本格的なリバイタリゼーションの一つの鍵は事業立地のシフトにあるのかもしれません。

このように、聞いている側も随分と刺激を受けたのですが、学生にとっても大きな学習効果が得られたようです。これまでは発表内容をまとめたチームレポートを採点の対象としてきましたが、今年は事後の内省を記した個人レポートを出してもらったので、そのあたりがよく把握できました。以下は学生レポートからの抜粋です。

・年齢や役職を離れたディスカッションのすごさを強く感じました。社内ではたいした混乱もなく、それなりのところに着地するものが、MBAでは着地しません。社内会議では無意識的にも序列や年功の不文律が作用しますが、MBAでは学生として全員が横一線です。全く政治力学の働かない場面での若い人たちの論点の鋭さ、新鮮さが私には大きな驚きでした。逆に言えば、社内会議ではそういったものを封殺してきたのではないかと強い反省を覚えました。

・チームでディスカッションしていると、最初は皆が好きずきに発言して、わけがわからなくなることもあったが、そのうちふと結論が腑に落ちる瞬間がやってくることに気がついた。そう感じる瞬間が来るまでディスカッションをやった。その瞬間が快感であった。日曜日にあのディスカッションがもうできないのは少し寂しく感じる。自分でも変だと思うが、この事例にはまってしまったようである。

・この研究の一番の目的は、異なる視点を持つ人間同士が一つの研究を作り上げていくことである。議論し、葛藤し、やり遂げたあとに待っていたのは充実した研究成果であった。そして一人では味わえない達成感と大きな喜びを得ることができた。

・議論をぶつけるときはぶつけなければならない。遠慮していては、よいものはできない。チーム円満は最優先の目標ではないので、まずは良いものを作るために全員が議論できる環境を作り、時間も限られているなかで、あきらめずに取り組み続けることが大切である。今回はそれを学んだ。チームのメンバーは一生の友となることだろう。

・我々のチームは、議論の回数と費やした時間ではトップクラスだったと思います。でも結果的には深く突っ込んだ議論がしきれていないという反省があります。優勝チームとの違いを考えると、そこが明らかに劣っていたと感じます。

・惨敗でした。われわれが取り上げた企業は課題とミスマッチでした。仕事でも同じことですが、求められたことに対してどう応えるかというのは重要です。逆に求められていないことをどんなに一所懸命やっても、無意味です。事例選定時に、シラバスを片手に徹底的な議論ができなかったことは悔やまれます。

・プロジェクトを通して、はじめの段階でモチベーションを揃えること、最終ゴールをどこにもっていくかを共有化することの大切さを学んだ。企業でも同様で、企業理念、企業の最終目標がわかりやすく、社員全員が同じ方向を向いていると不満が出にくいと感じる。

・上場企業の経営者と意見交換するという場は刺激的かつ問題意識を深める体験であり、各人が様々な思いを抱いたがゆえに、その後意見を統合することに多くの時間を要することになった。将来我々が企業のボードメンバーになれば、それぞれの職能を超えて日々意思決定することが求められるわけであり、その雰囲気を実感できたことは私自身にとっても得るところが大きかった。

・社会人として仕事を持ちながら学ぶMBAの学生にとって、今回のグループワークは時間との戦いであった。仕事や家族との時間の両立をはかりながら、かつ毎週に及ぶ授業と多くの課題をこなすという境遇のなかで、いかにグループワークの時間を捻出し、どのように議論を進めるかという問題に常に悩まされてきた。実社会においても、ゼネラルマネージャーは多くの案件を持ちながら、常に判断と実行の連続で仕事を進めていかなければならないという。考え方を変えれば、短期間ながら、今回はそのプチ体験をできたとも言える。

・自分自身に欠けている様々な点が見えるようになった。自分の中では強みと思っていたことが弱みにもなっていることを知ることができた。多様性に富んだメンバーに恵まれたことは幸運だったと思う。

・私なりのリーダーシップスタイルがぼんやりと見えてきた。まだまだ手探りであるが、少しでもヒントを得ることができたのは、プロジェクトを通じて自問自答してきた成果であったと受け止めている。事例の立役者が自身の経験からスタイルを築いたように、私自身のスタイルを少しずつ築いていきたいと思う。

・我々のチームには特にリーダー的な存在はなく、各自が同じ目標を同じレベルで共有し、やるべきことをおのおのが自律的に考え、自分の得意分野で貢献しようとした結果、金メダルを獲得できたのではないかと考えている。リーダー統率型の組織では、リーダーの能力そのものがパフォーマンスの限定要因になる可能性があるが、リーダー不在型の組織では、メンバー間のシナジーが生まれ、個人の能力を超えた高いパフォーマンスを生み出すことも可能になる。

・経営学のフィールドリサーチには、現場の綿密な情報分析と、思考のフレームワークを組み合わせた全体把握が重要であることを知った。

・対象に惚れ込んでしまうと目が曇ってしまう。都合の悪い情報には目をつむり、どんな情報でも研究対象に都合よく解釈してしまうのだ。これから修士論文に取り組むことになるが、研究対象をどこかで冷静に突き放して見る視点を維持しておかないと第三者の閲覧に耐えうるものはできないことを肝に銘じたい。

・心に残っている発表を振り返ってみると、それらの中には見事に「逆転の発想」が含まれていた。特に、外部環境の変化による脅威を機会と捉えたナルミヤインターナショナルとゼロのケースは私の心に強烈に響いた。授業を通じて、常識を覆すところに驚きがあること、いくらリサーチやインタビューをまめに行ったところでそれを分析してメッセージを出すときに着眼の鋭さが欠落すれば平凡な内容に終始するということを学んだが、これが今後の研究活動を進める上で最初に留意すべき大きなポイントであると理解した。

・発表時間はわずか15分。準備にかけた時間と労力を考えると、あまりにも短い時間でした。それゆえに何が本質かを見定めて、濃縮したエッセンスを伝えなければならないわけですが、それがかえって我々に本質を見抜く眼が未熟であり、伝える術が不足していることを浮き彫りにしてしまいました。

・一週間前まで準備を重ねてアイディアを出し切って完成したかに思ったところに、もう一踏ん張りの最後の伸びしろを見つけたこと、そして最後まで努力を惜しまずに頑張れたことが、私にとっての最大の成果であり、教訓であったと思います。最後の日曜日にメンバーが集まって、各自が作成した資料を合体させて夕刻までかかって修正し、いざプレゼンをしてみると、驚くことに全く迫力のない、日記帳のようなプレゼンになりました。議論した結果、主人公の立場になってそのときの苦労を想像し、共有しないと真実を伝えられないのではないかとの結論になりました。そこからの踏ん張りで、最後は銅賞をもらうことができました。

・この歳になって発表直前に泊まり込みの合宿までするとは思わなかった。そこまで熱くなれる自分がいるとは、新たな自分を再発見したような気持ちです。

・発表のあと、時間をおいて書いたこのレポートで得たことがあった。それは「やりっぱなしにしない」という、ごく当たり前のことではあるが、振り返ると、それまで見えなかったことも見えてくる。次へつなげることも自然に考える。この4ヶ月で得たものは、必ず次に生かすことを心に誓いたい。

この場ではチームプロセスに絡む内容を集中的に取り上げる一方で、それぞれの事例を総括する内容は割愛しています。それもあって、全体のごく一部を抜粋したに過ぎませんが、雰囲気は十分に伝わると思います。都合の良い側面だけを誇張しているのでは、と勘ぐりたくなる人もいるでしょう。でも、例外は本当に数えるほどしかありませんでした。

実を言うと、今回のプロジェクト実習の運営に際しては、私が神戸に移籍する前に携わっていたIMPMというプログラムの流儀を取り入れました。その内容は、プログラムの創始者であるヘンリー・ミンツバーグが『MBAが会社を滅ぼす』という本に記しているとおりで、「教育」から「学習」に視点を180度転換する点がミソになっています。今回の経験を通して、このアプローチは日本でも十分にうまく行くと私も確信を深めることになりました。

それにしても、凄まじいばかりのエネルギーだと思いませんか。86人のレポートを読んで、私も思わず熱くなりました。この莫大なエネルギーを、学生にとっても大学にとっても一段高いレベルで生かすべく、来年度以降に向けて何ができるのか、しばらく考えてみようと思います。学生の皆さんは、どうもお疲れ様でした。

(文責:三品和広)

 

 ■受賞チーム

 

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        金賞チーム                    銀賞チーム
 
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        銅賞チーム                    銅賞チーム