Home -> What’s new  
 
第七回加護野忠男論文賞選考結果について

■ 受賞論文
金賞
 麻生博也氏
  『日本のバイオベンチャー企業は、創薬・新規治療開発の担い手となりうるか:
  成功に必要な条件と経営者プロファイルに関する研究』

銀賞
 上羽健介氏
  『営業職のリーダーシップ持論の世代間継承に関する一考察
  −不動産企業A社における事例分析を通じて−』

銅賞
 柴田曜氏
  『新規事業におけるリアル・オプションの活用方法の提案
  −投資の事後評価と戦略策定における簡易的利用について
  あるIT企業の導入事例に基づいて−』

■審査委員

甲南大学特別客員教授 加護野忠男氏
流通科学大学 学長 石井淳蔵氏
株式会社 碩学舎 代表取締役社長 大西潔氏
古野電気株式会社 代表取締役社長 古野幸男氏
神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

■講評

今回の修士論文の発表を聞かせていただいた3人の方々は、お世辞ではなく本当に素晴らしい論文を書いていただきました。この3作品でしたらどこに出しても恥ずかしくありません。日本の経営学分野でアカデミックな修士論文を書いている多くの人々の誰にも負けない素晴らしい論文だと私は思っております。MBAでないと書けない質の高い論文です。本日は三本の論文にあえて金銀銅という順序をつけるというのが我々の仕事でございますので、その結果を発表させていただきます。その前に一言言っておきたいと思います。私の個人的な意見としましては、どの論文が金賞になっても不思議ではないほど、ほとんど優劣の差がありません。それぞれ違う分野の論文でございますからそれぞれの分野でこれがベストだろうと第一次選考で選ばれた論文でございますので、あまり順序は気にしないでいただきたいということを受賞者の皆さんには申し上げておきたいと思います。

まず、金賞は麻生さんの日本バイオ・ベンチャーについての修士論文でございます。アメリカでは創薬、新しい薬を作る活動、のかなりの部分がバイオ・ベンチャー企業によって行われています。日本ではまだその比率が極めて少ない。なぜ日本では少ないのか。日本でのバイオ・ベンチャーの現実はどうか、日本でバイオ・ベンチャーをもっと活性化するために何が必要なのかということを、日本のバイオ・ベンチャーの統計的な研究並びにバイオ・ベンチャーにかかわる人々のインタビューをもとにしながら論じた素晴らしい論文です。新入生の人々も機会があればじっくり読んでいただいたら非常にいい勉強になると思います。私はこの論文は修士論文としてほうっておくのは非常にもったいないとおもいます。すぐに本にしてほしいと思うのですが、忙しいからそんなことをやっている暇がないと思います。暇がなければ私がお手伝いします。世のためにも本にしていただきたいと思います。

第二位は上羽さんの管理職のリーダーシップの持論についての研究です。人間、特に管理者は、ある一定の持論をもとに自分の行動を形づくっていきます。一番有名なのはアメリカで話題になった研究、管理者が持っている理論には2種類あるという研究です。X理論とY理論です。X理論というのは、自分の部下たちは監視していないとサボる。また、すぐに人を騙そうとするという、性悪説の人間観です。このような人間観を持つ管理者は不正防止に留意します。Y理論は、部下を面白い仕事に取り組ませれば放っておいても働いてくれる、放って置いても素晴らしい業績を上げてくれるという性善説の持論をもつ管理者です。上羽さんは管理者、とくに優れた管理者とはどういうものかということについて、その持論とはどのようなものか、この持論を上手に受け継いでいっていくためには何が必要を分析されました。この分析は、次の点でたいへん面白い。日本の企業は、バブルがはじけた後、採用をかなり抑えました。その結果皆さんの先輩たちの人数は会社の中で特別少なくなってしまいました。こういう少なくなった人々がいるために、日本ではリーダーシップの持論を会社の中で受け継ぐことが出来なくなってきているのが現状です。この論文で紹介されている研究のひとつにリーダーシップのパイプラインという題名がありました。医薬の関係の方だとご存知だろうと思うのですが、製薬会社の経営課題はコンスタントに新薬を出すことです。新薬のパイプラインというコンセプトがあって、パイプラインが上手く維持できているかどうかをきちんとチェックしていくことが製薬会社で行われています。考えてみましたらリーダーシップのパイプラインというのが日本の会社の中できっちり出来ているのかどうかをよく考えていないと、このままでは日本の企業はダメになってしまうのではないかという問題意識をもとに、どのようにしてリーダーシップのパイプラインを再構築するのか。しかしながら、人がいないのですから、企業の外から連れてくるというわけにいきません。ですから上羽さんの論文では、リーダーから受け継ぐのではなくて、フォロワー、リーダーに従う人々がリーダーシップについての持論を上手に受け継いでいくことが必要ではないのか、そのためにどのようなことすべきかということについて、統計分析の結果とインタビュー調査に基づいてまとめておられます。非常にいい研究であると思います。

第三位の柴田さんが取り上げた新規事業についての意思決定を、MBAの新入生のみなさんはいずれ勉強される、リアル・オプションという理論を基にしながら分析した研究でございます。リアル・オプションというのは、ファイナンスの世界で作られた理論ですが、リアル・オプション理論についてきちんと知っておればシャープが現在の状況に落ちることもなかったし、パナソニックでは中村改革をやる必要もなかったというように私は思います。リアル・オプションについて分かりやすい説明をした上で、過去の事例にリアル・オプションを適用した事例の分析、今現に起こりつつある事例にリアル・オプションを適用しながら、リアル・オプションという手法が日本の企業と経営者の意思決定にどういった効用を持つのかについて優れた研究です。

今日授賞されるこの3つの修士論文はすぐに本になるような研究です。売れるか売れないかは分かりませんが、私の説によるといい本ほど売れない。その証拠に私の書いた本はほとんど売れません。この3つの論文は本当にしっかりした人でないと分からないような高度な議論をしておられますので、是非新入生の皆さんも機会があったら3つの論文をじっくりと読んでいただきたいと思います。このレベルのものを書こうと是非頑張っていただきたいと思います。

文責:加護野忠男





受賞おめでとうございます!