Home -> MBA Square -> ビジネスインサイト  
 

特集 3 『仕組みで稼ぐ問屋』

小川進(神戸大学大学院経営学研究科教授)

 

一般的に卸売企業は、長い間我が国の流通の非効率性の象徴のように扱われ、無用の存在と考えられることが多かった。有名な「流通革命論」では、小売企業がチェーン・オペレーションにより巨大な販売力を手に入れ、その力を背景としてメーカーと直接取引を開始し、その結果、問屋は不要になるだろうという「問屋無用論」が展開された。

しかし今日に至るまで、問屋は存在し続けている。さらにメーカーや小売企業に振り回されている存在ではなく、むしろ飛躍的な成長を遂げ、存在感を高めた卸売企業も多数登場した。それはなぜであろうか。本稿では、そのなぜに対する答えとして、独自の仕組みを構築することで顧客に価値を提供し、高収益を実現している卸売企業2社の事例が紹介される。

最初に紹介されるのは菱食である。彼らの生き残り戦略は「広域化」と「フルライン化」である。そして情報システムを導入し、物流システムの高度化を図ることにより、小売企業にとって魅力的な品揃えを実現し、必要なタイミングで正確に、そして安い価格で店頭に届けることを実現する。顧客からの要望が強かった、小分け配送問題に対応するために RDC (リージョナル物流センター)を導入し、これまでの大ロット配送とは違う仕組みを構築していった。また相鉄ローゼンをはじめとした有力スーパーマーケット・チェーンと物流体制に関する共同取り組みなども推進していった。その結果、利益額と売上高経常利益率では業界でも際だった数字を残すまでに成長した。

次に紹介されるのが菓子卸の高山である。取扱商品分野を菓子に、顧客をコンビニエンス・ストア業界最大手のセブン−イレブン・ジャパンに絞り込むことで成長を遂げてきた。しかし、その成長は業界最大手とたまたま取引ができたから、という単純なものではなかったと筆者は指摘する。彼らは経営の実態をデータでは把握するなど、粗かった経営管理を徹底的に見直す。さらに物流センター運営に関しても、その仕組み全体を作り直していった。このような自己革新の努力によって、菱食同様、高収益体制を実現することができたのである。

この2社は「問屋無用論」に対して、フルライン化の菱食、絞り込みの高山というように、対照的な対応戦略をとることで存在感を高め、高収益化を達成してきた。しかし両者には、 2つの重要な共通点がみられる。 1つは、顧客からの要求に対する考え方である。すなわち、今回の事例で言えば小売企業からの小分け配送要求を、「顧客のわがまま」とはとらえずに「経営革新の機会」と考え、顧客の要望を実現するための自己変革をおこなった、という点である。

もう 1 つは、顧客の要望の実現方法である。すなわち、顧客の要望を単発的な取引関係の見直しで対応するのではなく、企業の「仕組み」を革新することによって実現したという点である。さらにその仕組みは、顧客の声を積極的に取り込むことで実現したのである。菱食の場合は RDC 構想と一括物流、高山はデータ・ベースに基づいた計数管理と円滑なセンター運営の実現を、顧客の声を取り入れながら独自の仕組みを構築していった。

以上、本稿の概要を紹介した。長引く不況の中、多くの企業は業績の低迷に苦しんでいる。その一方で、みずからが革新することで逆境を乗り越え、高収益体制を実現している企業もたくさんある。今回取り上げられている 2 社のように、斜陽産業といわれる業界においてでも存在するのである。つまり、逆境も成長機会となりうるということである。本稿はそれを示してくれている。

紹介者:水野学(神戸大学大学院経営学研究科院生)