神戸大学経営学研究科は、企業や組織の経営という現実の問題を研究します。そのためには産業社会との情報相互受発信のシステムが不可欠と考え、社会人大学院を創設したのは平成元年でした。旗印は「オープンアカデミズム」、つまり開かれた社会人大学院でした。
その後、海外のビジネススクールをそのまま真似するのではなく、日本にあったビジネススクールのありよう、つまり「日本型MBA教育」を目指してきました。その中で、神戸大学経営学研究科の伝統である「研究と実践の融合を計る」という精神の下、「働きながら学び、また学んだことをすぐに職場で試すことができる人々」を対象に、独自の「プロジェクト方式」を創案し、洗練させてきました。「プロジェクト方式」とは、経営の現実に解決しなければならない諸課題をテーマにして、5〜6名で構成されるチームで、議論し解決の方向を探るという方式です。学生相互間はもちろんですが、そこに理論的背景をもった教授や若手研究者や一般院生も加わります。この方式は、入学当初のプロジェクト実習や、修士論文の作成に至るゼミにおいてはもちろん、時には毎日の授業においても用いられています。
プロジェクト方式で大事なことは、経験と理論とがガッチリとスクラムを組むことです。そのためには、両者のスクラムの位置をきちんと定めることが必要です。社会人の方々が集まって「みずからの課題や経験を開陳し討論する」だけでは、世間によくある異業種交流会でしかありません。「みずからの経験」も、理論のバックボーンがなければ、苦労話か愚痴になってしまいます。かけがえのないビジネスの経験が、日本社会あるいは世界経済とどのようにつながっているのか、その経験が世界の新地平を開く経験なのかどうかを知るためには、理論(あるいは、これまでの研究の蓄積)が必要なのです。「理論を手がかりに自分のビジネス経験を見直してみる」。これが、皆さんにとっての経験と理論の融合に他なりません。言うまでもありませんが、私たち研究者にとっては逆に、「みなさんのビジネス経験を手がかりに、理論を見直してみる」ことが課題となります。それは相互触発のプロセスです。
すでにビジネス経験を積み、さまざまな課題に直面している社会人学生にとって、この方式はずいぶんと実り多いはずです。みずからのビジネス経験に基づいて問題を考え、多くの仲間や教授と議論することを通じて、経営の専門家として、問題を解決するロジック、判断能力、方法論、そして経験を普遍化する理論を自然と身につけることができます。何よりも、何回となく議論がリセットされることになりますが、その中で「自分の腹にドシッと収まった考え」が生まれます。それは、経験と理論の融合の産物に他なりません。これこそ、MBAプログラムの中で身につけて欲しいことですし、それは会社や組織に帰って間違いなく生きてくるはずです。
本研究科では、MBA生がよりよい環境の下で、MBAにふさわしい研究を進めることができるよう、体制を整えてきました。ハード面では、パートタイムの昼夜開講制をとり、土曜日開講を実現し、サテライト教室を設置してきました。また、ソフト面では、カリキュラムの標準化を図り、多様な期待に応えることができるようになってきました。これからもさらに、ハード面・ソフト面で、MBAプログラムを充実させたいと思います。法人化され後ろ盾がなくなった現在、そうした試みを支えてくれるのは、卒業生も含めたわれわれと皆さんとのネットワークです。より充実した知の仲間ネットワークを展開できるよう、皆さんのご協力を期待しています。 |